自主映画
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ような目でガラスを引っ?いた。その音で何かが僕の中に入り込んできた。多分、僕を覆っていた硬い物の隙を突いたんだと思う。胸をノックする。声を上げたくはないから、心の中、静かな部分を必死で見つめる。じっと我慢していると下腹部がしくしくと痛んだ。石花君が傷をつけたのは、ガラスに張られた広告のステッカーだった。それはガラスの向こう側から張られていたから、結果ひどい音がした。石花君、なかなかすごい攻撃をするね。
僕の方が先に席を立った。一通りの挨拶をして、希望をほのめかして手を上げた。喫煙ルームのドアを開けて出てゆく時、体を刺激していた空気が粘りながら『トルゥン』と離れるのが分った。振り返らない。石花君はその夜に粉々になって死んでしまった。「俺のことゴミみたいに扱ったこと、忘れねぇがら」そんな電話をカントクに入れてしまったから。
帰りの地下鉄の中で石花君の言葉を思い出している。僕の自論なら『一歩目が愛で、二歩目からは根性』だ。人を好きになる話。少し石花君とかぶる所もあるよな。恋愛気分がいつまでも続くなんて、世の中の人はえらく幸せ。『想い』は自らを忘れたときにやってきて、次の瞬間には自らに縛られてしまう。自分から解き放たれた時の心持を、大事にかため、言葉にして運んだ記憶があった。雲の切れ間から射す太陽の光を感じ、それを現実の冷たい風にかき消されてはならないと決心した時があったんだ。この光のあたたかさは、僕しか感じることの出来ない、ささやかなものだ。誰もその光の機微を捕らえられないんだと。その時の自分の据わった眼差しを今でも憶えている。何故それが繊細から来るこわばりなのだと、感じてくれなかったのだろう? 若き日に意識の暗い闇を突き破ろうとした記憶。僕はみんなを心の内で責めたよ。何故自分をこんなところに閉じ込めておくんだってね。
ススキノの駅で扉が開いたとき、数人の若い男が叫んでいる。
「腹の底から湧き出る青春のエーナージー! 300回の耐久テストに合格したニークーターイー! 決して乱れることのないアーンーテーナー! 仏の嘘は人間の嘘のカーガーミー! オウッ! オウッ! オウッ! オウッ!」そう叫んで、左右両手の人差し指を交互に天に向かって突き上げていた。
静かになった車内。僕の胸の傷から、『つつ』と切なさこぼれ落ちて、滴のなでるその心の機微を、二人で等しく感じ合う。そんな事をもう長いこと考えている。それは恋ではないのかな。
家に帰ると、石花君がまだ左胸の中にいる。痛い。
『感じてないを感じている』
他人の感情の棘をうまくいなす。感じない。感じてもそよ風のように受け流す。それがうまい生き方。それなのに感情を動かす物が金を動かす。エンターテイメントはかりそめの感動を運んで心を潤す。風を吹かす。でも根本的に何かを治癒するものではないから、どこか
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