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『ステーキ』
自主映画
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自慢しすぎですよ。心が死んだ方が相手を感じさせる事が出来るんですよ」
 僕は「感じている人でも人を感動させる事が出来るよ」と言いたかったけど、不確かなので止めておいた。自分が死んで相手が感じるか。それを極めたらさばけたバイプレーヤーになれそうだ。
「ねえ、女の人ってさ、自分の内面を見てもらったら、ものすごくイイ男に惚れられるって思うの?」そう言ったあと自分の胸に刺さった。石花君にも刺さった。だるい女の子の前頭葉が活性化したみたいだった。「人間の心の奥には宝物があってさ、それが露になる時が幸福なんじゃない?」と続けようとしたのだけれど、その勇気は無かった。思いの外、自分の言葉に凹んでいたんだ。
隣の男が電話をしている。「誰もやってない競技、最初にやって、『一番』って言って調子に乗ったの? 馬鹿だから、今ビリだって気づいてないの? 大丈夫だよ百回ぐらいやったよ。オレ力あるもん。マジあいつ萎えるんでしょ? マジあいつ薬飲むとパワーアップするらしいよ。でもマジ使えねぇから。使えない力は百倍になっても使えねぇしろもんだから」身体の中に呼応するものがある。石花君の言葉、少し分る。その向こうの気力のありそうな中年男性が、「あの部分はまん丸かい? 涙型かい? ああ、円錐もあるかい」と会話している。僕は円錐型だと思う。ちょっとおっぱいのこと考えてた。「世の中が狭いっていうのはさ、世界を仕切っている人間は一握りしかいないって事だよ。つまりあの、夜景を見るみたいなもんさ。高い所からふかんで街を見ると心地いいだろ? どう? 入りたくない?」女の人を口説いている声がする。石花君は重いまぶたを一生懸命開けている。彼はよく見るとその奥二重の目が魅力的なんだな。腹にイチモツ抱えてそうだから、質問をしてみた。
「自分のことを、醜い男っていって嫌って、こんな人に惚れられたらどうしようって恐れる女に何故惹かれるんだろうね?」
「それは多分、自分は触れてみればそんなに醜くないって言いたいんじゃないですか?」少し間を空けて石花君は続けた。「いや、醜いと言われて削られた自分が凹んで、凹んだ分、誰かを元気にして、『俺、あいつより優れてる』と元気にして、世の中の歯車を回しちゃってるんだ。そして凹んだはずの自分も無理やり一緒に回されてしまう。逆に言うと、その女の子は醜い自分に好かれることで、美しい誰かに好かれることになる。でしょ?」
 僕の頭は固まってしまった。石花君の顔を視界の端に置きながら、いかんせんこの人は毛穴が開いてしまっているからな、と思った。僕を固めているものに触れる気もないし、触れてはいけない気がした。いま鏡を見たら僕はどんな顔をしているだろう? 石花君に対しての嫌悪を表しているなら、顔をほぐさなきゃいけない。顔を何度か拭うように手で擦った。石花君がポケットから鍵を出して、とろける
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