自主映画
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考えている。たったワンシーンの為に石花君が待っている。
「人間はたくさんの勘違いに溺れて生きてゆかなきゃならない。だから真実を欲しがっちゃうんだな。愛って信じる?」
二人を背中に感じながら石花君が『マンションの内覧会』の看板を支えている。
「あのさ……。ずっとこのフニャけた男、撮ってるんですか」石花君がカントクに言う。低い声で、それは意味も分らない説法を聞かされる中学生みたいにだるく。カントクはそれを聞きながら女の子に指示を出している。このセリフの時、女の子をメインに画面に据えようと思っているのだ。結構よくある手だ。
「そんなこと言っちゃダメだよ。何せ彼は映えるもんだからさ」
「心は画面に映るんですけどね。小汚い欲とかもね」
「そう? 俺にはシンジ君の無粋な所はあまり見えないけど。まあ、それが彼を一段と汚しちまっているようなところもあるけど、外面に守られた心の奥底をね。それがまた、人間らしくていいんだ。第一さ、このシーンは石花君の心の曇りを現すんだからちょうどいいじゃない? ね」
吉之はカメラの後ろから歩いてゆき、ひどく憤慨してこう言った。「真冬の夜中にスーパーの駐車場でスピンターンするんだよ。いいじゃない。カッコいいじゃない」このシーンはカントクの想い出だった。中学生の時、悪い先輩のスカイラインでそうして遊んでいたんだ。「鬱屈した魂の代弁になるなら最高じゃない。それが芸術だよ!」そしてシンジ君に強めに言う。「自分がカッコいいと思うなら突き通さなきゃダメだよ。下手に弱さとか、可愛らしいところ出したらなめられますよ。第一このシーンは、腹を決める所ですよ。腑抜け匂わせちゃいけないでしょ? 分りますよね?」
それまで黙って揶揄されていたシンジ君が少し興奮している。
「おい、俺の頭に乗ってみな。死ぬようなプレッシャーに襲われるぜ? それに耐えられるのは俺だけだぜ? やってみなポンチョ。乗ってみなポンチョ。俺に降るのは男前の雨だぜ。その顔で耐えられるか? 乗ってみな。波に乗ってみ。俺の女は顔が小さいから、俺、大きく見えるぜ? 意味分る? 見てみろヒカルちゃん。お前のせいで冷め切ってるぞ? そのシャワーヘッドみたいな顔が近づいたらどうしようって、怖がってんぞ? ムケたてのアレにシャワーあてた事あるか? 女の子はそれぐらい敏感なんだぞ?」
その興奮がみんなの中から消えるとえらく場が収まった。吉之は考えている。何故この場面で僕は急に興奮したのだろうか? 実はシンジ君の演技を見ながら、「悪い性欲を身体に満たしながら、それがあぶりだす意識の片隅に、自分の可愛さや、純な所を感じている輩が。いつかキンタマがすべてを腐れさすぜ」と、冷めて見ていたんだ。何故急に正義漢みたいな言葉を? いつもの自分なら心がいくら熱く回っても肉体を動かす力にはならなかっ
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