自主映画
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うらやましくて、恐ろしくて、陰で唾を吐いたこの手の人たちを前にしてなんだか少しの自分らしさを確認しているんだ。魂が傷つく。それは生命の危機を知らせているんだ。僕は感じすぎていた? いや、感じなければ、もう死んでいるはずの人間だったんだ。
ススキノにあるこの木造の一軒家。家主はもう住んではいなくて、防災上の理由で取り壊しが決まっているらしい。今は写真展をやっていて、一階には素人に毛が生えた、もしくは玄人はだしの作品が並んでいた。その二階、板の間の部屋で僕たちは撮影していた。さっき僕はあえてみんなの前で、「あの話、進んでいるんですか?」とカントクに訊いた。「あの話」セックスのこと。胸が硬く膨らんでいた。実は昨日、「そんなにしてくれなくていいですよ」と腰の引けた電話をしたんだ。僕を呼んでカントクは下の階に降りていった。
「吉之は心に傷があるだろ? 自分にもあるけど、生きる為に忘れちまったんだ。まあ、それを消し去るほど楽しいこともあったから。でもさ、過去にあった悲しみは、本人がどう忘れようと、他人から理解されない限り、宙をさまよい続けて、また新しい誰かをとらまえて、その人はまた同じ道を辿ることになるんだ」そう言うとカントクは急な階段を昇っていった。ぼくは狭い間口から中の様子を見ていた。
「忘れたはずの過去の傷が、誰かをとらまえる、か」
シンジ君が「このブーツ、こないだ履いてなかったですよ」と言う。「年頃の人間は何足も靴を持っているから」とカントクが答えた。「ワルと会うとき、目印みたいに履いているって設定でもいいし」
カントクがシンジ君の右脇腹に薄いクッションを仕込んでいる。彼女が手縫いで作ってくれた物。中に緩衝材が入っているらしい。
「シンジ君、からだ細いね」とカントクは悩んでいる。「腹引っ込めてもそれが限界? ねえ、一度殴ってみてよ」
「お前が出てゆく。俺たちの知らないところへ行く。知らない女を抱く。その時、お前の中で俺たちの秘密はどうなる? 面白い話として広まっていかないか? そうしたら、お前が知ってる組織を別のものに作り変えなきゃいけないんだ。分るだろ? 今まであったものを壊して一からだぜ?」
「絶対、口割りませんから」
シンジ君、殴られる。
「その場しのぎじゃねぇかそんなもん!」
シンジ君が組織を抜けるシーン。このシーンは怖さを出さないといけない所。ワルの人があんまり迫力がないから、何テイクか重ねて、役どころも変えている。カントクが「乾いた感じでやってみよう」と言う。「あっ。そっち逃げるの?」と僕は思う。
相手を殴る。肉体レベルまで完全に敵対する心持ちを僕は知らない。最初のテイク。シンジ君の腹にボディーフックが入ったとき、体の芯に、弱い自分を感じた。この人たちは本当の世界で人を殴ったことがあるのだろうか。殴ることのない
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