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『ステーキ』
ある夜の話
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そうか」
ある程度 圧が大きくなるとそれを知る人間は落ち着く。大きな傘が必要だ。そんな歌あった。大きな傘の下は柔らかい笑顔であふれている。そしてコントロールを手にした人間は、たまに自分たちを善人ではないか? と思う。
「リン君、明日、電話番来るかな?」
 俺はその仕組みをヤリチンの魂だと思う。彼らにあるのは魅力じゃない、圧力だ。たっぷりと経験を積むと圧は強まる。気が練りあがって相対する人間を制する事が出来る。相手にあずけた圧が、そいつを自分の文脈に導き、「それが答えだ」と言えるものを引き出したら、それを柔らかく取り払って見せる。相手は晴れやかな気分で従属する。たまに俺もそれを使う。

 増藻は部屋に帰ってセックスをした後、セックスをした。谷間の中で「カモン! 飯盛女!」と叫んだ。事の最中、耳元で妖精が彼を賛美している。

鍛えた背中が素敵だわ 「おう!」

そんなに感じるなんて極めて優れた脳みそだ 「おう!」

その大きなモノは鉱脈を探る敏感な嗅覚を持っている 「おう!」

天に突き抜ける気合はひるがえって柔らかい平和をもたらすね 「おう!」

その吐息は絶滅間近の動物に生きる強さを与えるね 「おうよ! ケツの穴まで悦んでいる! あえて世界に突き出したいぐらいだ!」

 増藻は鏡の前に立ち、両腕を広げ、肘をたたみ、上腕二頭筋を愛す。
「均整の取れた身体!」
 指二本がピンと張り詰められて、宙にある架空の障害物に突き立てられ、それを砕いた。
「世の中に流れるテクニックとは天上界に登るための梯子。一段一段昇れば空に達する。愚人は愚直に昇りながら、中途の段の魅力に足を休めて満足するであろう。それは諦念の始まり。衰えの足音に追い越された証拠なのだ!」増藻の唇が、鼻がピクピクと震えている。
「満足なセックスを与えられると人間は戦争をしないのではないかと、誰かが言う。しかしながら最高の愉しみを求めるのも人間の性と歌われる。ならば戦争は不可避ではないか。その戦争を収めるのはやはり金だろうな、クスリだろうな。人々は己の分を知りながら少し上の世界を求める。その隙間を埋めるのだ。クスリも金もその道具だから」
 増藻は窓の外を眺めている。後ろでは女がアイスを食べている。電気スタンドの灯りをさえぎって窓の向こうを見ればパチンコ屋の立体駐車場が見える。
「この街は好かねぇ。街に住む者の心の奥の欲を表すのがその街の風景じゃなきゃいけないな」


ダイヤモンドみたいに
確かなものが
目を引くから

ほのかな香りを残す
若い日のかすみのような
そんなものが指の間をすり抜けて
忘れ去られていながらも
いまだに世界に残っています

それをまた吸い込むように
だれも彼もが 新しい答えを
新人の映画俳優ですと 差し出すので
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