ある夜の話
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ールで、後に世界を獲るボクサーを見れば「十九億」と誰かがささやいた。私は長い時間をかけてその声を理解した。そこに至るまで三度、精神科の隔離病棟に世話になった。
裏社会の人間は、表舞台で大金を稼ぐ人間の金の流れを細かく把握していた。もちろんどうやってその金をかすめ取ろうか、と考える為である。私は当然ながら偉い人達に助言した。
「そろそろ金脈が他に移りそうですよ」
そのことによって私は偉い人達のそばに置いてもらえたのだ。誰よりも早く金脈をつかむ事は何よりも大事なことだったから。何故、偉い人と知り合いになれたか? 精神科の病棟には、わりと裏社会の人が逃げ込んでいるのだ。
彼らはあるべき金額を超えて金を手に入れると必ず堕ちた。それは目に見えない薄い膜、世界を区切る神様の意、分水嶺か。そのうち私は、私のインスピレーションが引き金になって彼らの上限が決まるのではないか、と考えて少々悪い気になった。しかしながら前を向いて考えれば、私に査定された事によってその金が彼らの中で落ち着く、あるいは彼らの頭上にある形なき物を金として彼らに握らせる事になるのではないか。そして私は天使のように人に付き添いその金の運命を見つめる。
今しがた帰っていった増藻さん、もう上限が来ているのだ。もしかしたら私のインスピレーションを超える何かがあるのだろうか。大きな鉱脈が彼の手によって掘られているのかもしれない。
私を可愛がった偉い人に「俺はいくらだ?」と訊かれた。「まだまだです。私の知らない桁が見えます」その人、他人の金脈を掘っていた。自分の運はもう使い果たしていたのだ。世の中はひずみ、大きな街で大きな爆発が起きた。「くじら12号」という歌が耳に残っていた。
帰りの車の中で増藻は暗い街を眺めて思う。最近の車はおとなし過ぎてダメだ。エンジン音は世界に渦巻く雑音から孤独を守ってくれる。ある意味ひとつ壁を造るんだな。街を無意味にしたい時もあるだろうが。街を無意味に?
「この街がステーキに見えないか」
佐古が「何ですか? 食事ですか?」と訊いたから。いいや、と答えた。増藻は東京時代の古いタイプのヤクザを思い出した。一人のいきがった男を捕まえてリンチを喰らわせたんだ。「ヤクザも怖くねェ」とうそぶいていた男だったが、リンチが終わった後、潤んだ瞳で古いタイプのヤクザを見上げていたっけ。ありぁ愛だな。愛が芽生えたんだ。うん、意味がある。俺たちは濃密な意味のある世界を旅してる。
一つの事象をとらまえると、他の物事も同じ要素があることに気がつく。この世界の仕組みってのは、自分たちで圧をかけて、自分たちで取り除く。知らない奴がどこかで圧をかければ、そこに飛んでゆき、それもまた取り込んで新しい圧にする。その力があるとなんだか難しい問題も簡単になっちまう。
「その件はあいつらに任
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