ある夜の話
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とともに流れ出ている。マニアにしか分らない、価値のあるフィギュアを愛する者同士みたいに密なつながりを持った自分達は特別であり一般的である。
「深く掘らなければ行きづまる」その言葉にちょっと焦る。それに足首をつかまれながらシンジ君は踊った。さっきリン君? が愛した女の子に「すごく良いね」と声をかけた。その言葉を伝って自分の過去が少ししらけたみたいだった。
「俺たちは健康なんだ。森の奥の水源地みたいにさ。この世の深みは俺たち元気な奴の生き様だよ」
佐古の運転するカローラは誰の物だったか、後ろに座る増藻がたずねる。
「これは捕獲に行く時の車ですよ」
「そんな事は分っている」捕獲。薬の受け渡しの時に使うんだから俺が知らないわけないだろ。
「たぶん鎌口さんではないですか」
「ああ」と言って増藻は黙った。
「たぶんですよ」
誰の物か分らない事が何故か気になった。どうしてだろう。乗りなれているものから過去の記憶が剥がれ落ちて、その隙に知らぬものが忍び寄る。身体の端々にまで血液を送りたい。そして手の届くところにも同じように。
「悪に触れて飛ばねぇだけの自制心はあるか?」そう訊いた後、男の顔を見たら「コイツ分ってねぇな」と気がついた。自分の言葉が届いていない。何か虚ろな空気に吸い込まれてゆくのを感じたんだ。昔、大きな人から言われた言葉を思い出した。
渦を巻く悪人になっちゃ駄目だ
悪人が誓うのは個人主義なんだ
渦に巻き込まれた友人がいたら
気をつけなくちゃいけない
いつかそいつは自我に目覚めて
怒りの矛先を向けてくるだろう
増藻は助手席に座っている女を「いいよ、今日は帰りなよ」といって制して「送ってってよ」と佐古にあずけた。「愛してる。愛してるよ」
とても純粋だったあの人
世界方々から姿様々な魂を集めて
顔が変わってしまった
霊魂たちはその人を
あの世への出口として集まり
腐り果てるまで使い込んでしまった
その人の純粋な幸運の中で
天に届く経験を記憶した魂は
ちりぢりに散らばって
幸運を欲しがる人に受け取られ
世界に固い膜を造った
彼らは梯子で軽々と天に昇り
その道を確かにして
不運に手を汚すことなくむさぼった
他の人々はどうやって幸運に辿り着くか
分らないままである
「それなんだ?」と増藻が訊いた。
「いや、自分 文学部なんで」とリン君は答えた。
「何て作家だ?」
「読み人知らずです」
「読み人知らずか。聞いたことあるな」この男どうしよう? 「おい、ライターを紙の上に置くな」
「はい?」
「紙が燃えちまう事を連想するだろ」
気になった人間を集めて適度な距離に配置する。太陽が惑星を従えるように。
この男を少し遠い所に?
俺には木星や土星が
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