ある夜の話
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生まれ皆を導く」フロアに目を配り、カウンターの向こうに倉庫らしきものを探し、辛い酒を舐める。この店は地下室なんかありゃしないか。
東京の大きい人、ある国家権力者に会って、その人の頭の片隅に自分たちの存在を割り込ませようという話。俺たちがよく行く店の地下室は、むかし貯蔵庫だったのが改装されて上品な応接を頼まれていた。そこで権力者を骨抜きになるようなセックスで抱き込もうとしたんだ。乱交を目の前にしてじっとしている男を、気が弱いと見た俺は「自分、先に行きますよ」と言った。大きい人はそれを制して、みんなで一緒に交わりを眺めていた。事前に媚薬を垂らした酒を飲ませておいた、くすんだ色の顔をしていたその男は一向に俺たちに心をゆるさなかった。あのとき俺の輝くようなセックスを見れば、その男の気持ちも変わったのではないか? そして大きな傘が開いたのではないか? その男曰く「私は若いときにしこたまヤリまくったんでね」本当か? 縮みあがったのではないか? その男が帰った後、交わっている俺を大きな人が見ていた。
「その命は言い訳か?」外見のいい女を抱いて頭に乗った俺に言う。
「切れば血の流れる身体を盾にしてな」膨らんだ俺が嫌いらしい。
「欲にも質があるんだぜ」俺の意識は濃密だった。高級な年を経たスコッチみたいに。
「奴らと歯車が合うくらい盲目じゃないか」いったい誰のことを言ったのか、俺の巨根を見ていたな。
「命とは一応、愛だな」ああそうだはみ出した所に愛はあるのだ。
この一件の後、下部の人間がパクられた。俺は大きな人達の顛末を見ないうちに姿を消した。暗い闇に葬られる前に。
増藻の後ろで優しい声がした。
「幸運になりたけりゃ自分の気持ちのいいところ出さなきゃ。だってそこが悦ぶのが幸せなんだろ? 大丈夫だよ、気持ちいいは幸福の源だよ」増藻は「正しい」と首を縦に振った。
いきがりが扉を開けて、ふわついた女が吸い込まれていく。増藻が見つめる扉に英語で何か書いてある。たぶん便所という意味だ。文字がキラキラ光っている。名前を上品にしたら中身まで上品になるのか? 『増藻』なんか意味あるか? いずれ緑色の宇宙人になるぜ。
その扉が閉まると音楽が大きくなった。「何だ?」と思ったが、すぐ合点した。フロアにいる若い男がまた扉に吸い込まれてゆく。その後を追ってまた男。ならば増藻も吸い込まれよう。
大きな鏡は気持ちがいい。世界が広がる。個室に入って思う。この女は男達に視姦されて心が死ぬだろうか? 死んでしまった女は愛の壷になる。何かから逃げようと愛を追いかける。何かとはたぶん心の奥にあった羞恥心? 理性? そんなもんだ。自分のそれを否定されるような経験をしたら何故か全力で愛を求め、そして自分を肯定する思考回路が開発される。それでも否定されたら? 死ぬまでさ。それにしても
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