ある夜の話
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「今日のセリフ教えてくれよ」とシンジ君が訊く。
「この世のすべては魂の性感帯を突くためのもんだ。ここに来たのは、強く突っつかれるためだろ? そうだろ? 何で可愛い服を着てるの? 何で目を見ないの? 突っつかれるのが怖いの? 恋は雷に撃たれるみたいにって言うだろ? 雷は天から降ってくるけど、自分から迎えにいかなきゃ撃たれないんだ。もう、君のすべてがきっかけなんだ。俺はもう避雷針みたいだよ」若い男は答えたから、シンジ君はクスクス笑っている。
「ダーツ・バーの女にそれ言ったら兄弟になれるぜ」
「いいね」
シンジ君は過去に彼を事務所に誘ったけど断られた。ひっそりとヤリまくりたいのだと言った。彼曰く、この世の女には地雷をはらんでいる者がある。それは彼女の無意識の奥深くにあって自身ではわからないんだとか。今日は地雷を踏んだか? 明日はどうだ? ひやひやしながら心地よい興奮に身をゆだねるのはなかなか挑戦的で自虐的でもある。自分がいつか不能になることを想像しながら悦楽をむさぼるのだ。「表舞台に立つと時間が縮む」そう言って断ったんだ。
ホールには派手な音の重なり。人はまばら。空調からはアロマの香り。隙あらば何かをしとめる酒作りの男。
若い男は何かを見つけたみたいだった。
「行くのか?」とシンジ君が言うと。興奮でまったりとした目で女の子に向かった。後ろを向くと酒作り男が目線を走らせている。「お前と兄弟? ノー」カウンターの向こう端に顔の長い男。「お前も兄弟? ノー」ガラスブロックの壁の向こうにキャップをかぶった場違いな年長者。「兄弟? ノー。もう引退だろう。若いとき悪をかじったな」
モテるからって女をはべらせたら人望は消える。その事に気がついたときは本当に興奮した。つまりその逆が天国だってことなんだな。
「人間するべきときに、するべき事をやらなきゃダメになるよ。そのするべき事が楽しいんだから最高じゃん」若い男が言う。シンジ君が「いいセリフだ」とうなずいた。
彼は少しのあいだ黙っていた。女の子は喋らせなきゃいけない。その言葉は聞こえなかったが、彼の意識のまろやかな部分に吸い込まれているらしい。
「私って運を信じないの」音の狭間から声が届く。
「運は信じるものじゃない。自分を信じられるまで動き続ける事だよ。それが運になるんだ。突然空から降ってくる運なんてありゃしないんだよ?」シンジ君は「上手い事いうね」とまたうなずいた。彼が女の子の手を引きながらフロアを横切ろうとしている。シンジ君はステージの上の男に手で合図した。音楽が派手に大きくなった。「おお、兄弟。いい音だ」二分したらもう始まっているだろう。
小さいテーブル、小さいスツール。細い体の増藻がいる。「あのとき俺は正しかったのではないか?」増藻はそう思う。「正しい欲が満たされると、そこに道が
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