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『ステーキ』
カントクの話
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っと宙を見ていた。シャワーを浴びることも頭に浮かんだけれど、体を包む空気が強くてやさしかったからそのまま横になっていた。デリヘルみたいに一緒に浴びればいい。動かない体の中、頭がひどく冴える。世界の一員として考える事を強要されるみたいに思考する。

俺の中にも原発で失敗した人間と同じコントロールの欲ってのがあるわな。その欲は人間を確かに進化させてきたけど、世の中でいちばん下衆な感情の一つかも。そこには神様が導いた運命の出会いみたいな、確率論の利かない美しさに欠けているかも知れないやな。昔から人間は刀で人切るぞと言ってコントロールしたり、鉄砲も同じくそれに使われたり、そんなこと言ったら俺は出てゆくぞと、女の情念を利用したり。何せ自分の手の中で、すべてを転がそうとさせちまうんだ。命や心の重みってものがコントロール欲の源泉になるんだよな。すべての価値あるものが人質なんだよ、人質。いや、原発関係者、政治家、その他諸々の人達は一度、映画の演出をやってみればいいのだ。そうすればすべてをコントロールする事のバカバカしさに気がつくはずだ。守ると言ってコントロールして、奪うと言ってコントロール、終いには優しさってやつも使う。
 頭の中に原発が爆発した時の映像が。
 不謹慎な話だが、俺はあの飛び出た煙が精子に見える。後々何になるか分らないのだ。コントロールできるものから出来ないものに変わる瞬間を見たんだよ。それは人間世界の不確実さを現すものに見えたんだ。あの四角い施設の中で熱くなった真実ってやつが、たまりかねて飛び出したんだ。思春期に親を嫌うような強烈なパワーでさ。
 長い薄いナイフが右脇腹に刺さった気がした。そして考えるのを止めた。カノジョが来てそれに触るまでペニスには触れないでおこう。そこに宿る何かが逃げてしまう。

 交わるというのは、ひどく強い現実のようで夢のようだ。自分自身であって普段の自分じゃない。ジャングルの高い樹木に登って万能薬の木の実を獲るような危険は感じないけどそれと同じぐらい有り難いものだ。それも、しているうちに何故かまったく当たり前の事に思える。寒風にさらされていた心が温まっているというのに、だ。いつも心の中で何かを求めている声が、遠くで吹く風を呼び込んで、かりそめの充足を与えてはくれる。そこには、長年を費やして集めたオブジェに囲まれた部屋みたいな混沌と完結性がある。何にどう光を当てればいいのかわからないけど、注視すれば風向きの関係で常に輝き方を変えている。服を脱がす前はいろいろと記憶が感性にホコリをかけちまって、嫌っている予定調和が頭をよぎるから、乳首をコリコリとしてスイッチを入れる。体の中に充満した混沌は集中力によって収れんされて、何らかのエキスとなってちょっと出る。何かが足りないためか「好きだよ」と言葉を添える。舌を差し入れる悦びを逃さ
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