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『ステーキ』
カントクの話
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とも人に愛でられるもの。さっき出て行った女と、この男。二人ならどんなラブ・ストーリーかな。頭の中で転がした。
「女のベタぼれだべ」
 あの女の人、目が小さくて情念が深そうだった。まぶたでせき止められて心が吹きぬけねぇんだ。俺? 俺の目は細いよ。魂が目から抜けたら硬く勃起しないし、書くべき事も溜まらないじゃないか。目の大きい奴ってのは猫みたいに風任せ的なところがあるからね。店の男は、あからさまな威圧感の無い、かといってその奥の魂の潤いを知らせぬこともない、上品な程よい眼力だった。

この歳になると、体の中からあふれ出すような熱は期待できないから、マフラーと手袋は必需品だ。「すすきの」の反対方向へ歩く。その街にはシンジ君の働く店がある。少し前の『イケメン』ブーム。テレビ中継で店の紹介をするとき、「イケメンが働いてますよ」というのが売りになったとき、事務所の社長が「これ、いけるわね」とシンジ君たち精鋭を店に送り込んだんだ。目ざとい暇な女たちがシンジ君を目当てに訪れる事もあるらしい。以前、友達に調査に行かせた。シンジ君が働いている最中ずっと上機嫌で彼のこと眺めている人もいるんだとか。その女も、飽きないかね? 底なしの性欲みたいで辟易するけど。ああ、その友達から電話あった。
「エロ気出して、男 勃起させたら、その男と寝ないと、その女は不幸になるッスよ。つまり、グラビアアイドルとヤリまくりの法則ですよ!」
 この男、前に「記録係」を頼んだら、まったく使えなかった。何とかとハサミは使いよう、そりゃ嘘だ。彼を使うぐらいならお守りでも持って歩くよ。その男から、たまに電話が来る。「女を紹介してくれ」って話だ。
 夜のすすきの、外国人が俺に訊く。「シングルの女の子、どこにいますか?」畏れがある。女の貞操がふわりと風を吹かす。それは誰がつくりだしたものだろう。

ふわりとあたたかいもの
ぴりりとキレのあるもの
しっとりしめっているもの
初夏のようにさわやかなもの

 感じていたい、この地下鉄の中。抑制と麻痺に包まれてそう思う。人間の集まりの中で生きてゆくとき、抑制と麻痺はスルリと忍び寄る。たぶん、それぞれの人間の不備を、知らぬ間にお互いにつつき合ってすべてを駄目にしてしまうんだ。それぞれの狭苦しい自由の中で、それぞれの放つほのかな魂の働きが、口をふさがれて混沌。そして、その沈黙を破るのはアホな若さだと決まっている。
「ササキ・ダッシュ!」
 脇を走り抜ける小学生。佐々木君はそんな走り方をするんだ。いや、『佐々木・脱臭』かもしれない。ひどいな。

 肌の荒れたあごからジワリと不運広がって、恵まれた高揚感を失う代わりに、冷静な心を手に入れる。一度得た醜さは体の隅々に顕れて、深い思索を生み出す。俺たち表現者は不幸と戦わなければならない。そこには前進と後
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