暁 〜小説投稿サイト〜
『ステーキ』
カントクの話
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。それを救ったシンジ君は、ドラッグストアのCMを獲った。前回は、ケンカでシンジ君に負ける役。「ヨダレを垂らしてくれ」という、俺の要望をひどく嫌悪していたな。その後シンジ君は、ダーツ・バーのCMを獲った。石花君はそのシンジ君にライバル心を燃やすんだ。現実にね。
 ガラスの向こうを見ると、視界に女が入る。その存在に引力を感じながら、そよ風のように振舞う。「これだな」と思う。カメラが回っていても平常心。シンジ君にはそれが足りない。シンジ君は毎回、女の子相手に演じる。カメラが回って緊張する、ならわかる。彼はその逆なんだ。この前なんて、カメラの前で「おっぱじまるんじゃないか」と思わせる程だった。そして、それに脇役の『石花君』がケチをつけるんだ。
 頭の中にタフなボクサーがいる。
「そいつらを俺に殴らせてみな。きっと、彼ら、友達になれるぜ」
殴られ兄弟? 

 女が席を立った。グラスをキレイに空にしてタバコを三本吸った。俺のことなど気にしないで平静だっただろうか。彼女もこの寒いのに冷たいドリンクを飲んでいた。グラスの氷はとけていたから、ゆっくりしていったのだろう。俺はたまに意図的にそうする。意識してしまう人がいると、その違和感がなくなるまでその店に居座る。ゆっくりタバコを吸って時間を稼ぎ、体の中から異物が抜け出るのを待つ。それは、家に帰るときまで持ち越しになることもあるけど、そうしていると不思議と創作のネタになるんだ。
 なるほど俺は、じっと腹の中に、この空気が創り出す、物語の可能性という重い力を感じて平静。そこから見える少しの物語も逃さない、貪欲な小説家のよう。
「可能性?」
 創れば創るほど暖簾に腕押しの感があるから、その重たい力も削り取られてしまうけどね。
「可能性なんて、元々 君にはそんなものは無かったんだ」と誰かが言う。
「それはアリな話だ」
「可能性とは革命を起こす力さ。流れに乗ってうまい飯を食うのは、薄ら笑いの三流の人間だ」
「なるほど」
俺はじっと本当の潤いを探してみる。そこに吉之がいる。彼が性的に渇いているのを知っている。でも何故か潤いなんだ。それは現実に触れることなく、腐りかけているのかもしれない。枯れているはずの性欲が女にむしゃぶりつく。その場面を考えて少し勃起した。俺はカノジョにメールした。

 鼻、昔より とがってきてないか?

 タバコを一本吸ううちに返信がある。

 何それ! (怒りを込めた絵文字)

 俺はフェラチオのこと、思い出していたんだ。すうぅっと心が満たされる。俺たちうまくやっているよ。東京ほど高いビルなんか無い街でさ。

 店を出る時カウンターの奥にいる男が目に入った。好もしい枝振りをしている。樹木と同じく人間の体にも『枝ぶり』があるんだ。その男の枝ぶりは、美味しい木の実をつけなく
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