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『ステーキ』
ヨシユキの話
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風。僕の領域は経験的に言って守られている。この街には長い間―僕の記憶する間―それを脅かす程の大きな地震や、戦争が無かったから。たまに訪れる地震は神経をピリリとさせるくらいで済んでいる。心無く、嗚呼アフリカの内戦に巻き込まれる少年兵よと、生死の狭間の緊張と弛緩を想う。
国は大きな堤防を造ると言う。僕はナイフで刺されても死なない程の筋肉を想う。
僕たちは塀を造って自分を守りながら脅威と闘うけれど、どこかに諦めの匂いがする。意識を縛り付ける肉体の限界を想う。
「ここまでやればいいだろう」それは諦めではないかな? 自分の正しさの限界を感じているのかも。それは『フッ』と魂が体を離れる瞬間の事。
経験したことはないけど、女を下にしながらこの辺で射精してもいいだろ? といった具合か。
 頭の中で誰かが言う。
「あれ位、誰でも出来るよね」
体を鍛えたことのない人間が、ロートルのボクサーをなめている。ありとあらゆるものにその感覚は含まれていて、それは現実を見落とすことで生まれ、何かのフィクションのように世界を包む。細かな現実を見れば、数限りないフィクションの広げる世界の足を引っぱるから。それは全然好ましくない。
「自分の体の欠点が、心をキュゥゥと締め付けるほど、責めてくることありませんか?」こんなもの打ち上げ花火みたいに夜の空に消えちまえばいいのに。物語の最後で交わされる主人公の口づけみたいなカタルシスでさ。「現実が責めてくるのだ。現実がね」僕はそれをのらりくらりかわしている。僕の気持ちはロートルのボクサーにシンクロする。
みんなフィクションを多分に含んだ自由の中で生きていたいんだ。肉体を忘れた心が、空高く舞い上がり、そこに吹く風でコロコロと回って、奏でる音を聴いていたいんだ。そこにはかぐわしい、力強い幸福がある。そしてそれが作り出す若い、可能性の世界がある。しかしながら作り話が大きく膨らませた心は、それを壊す大きなリアルがやってくるのを、無意識に待っているようでもある。
 現実を知るものは大きな存在に屈する。大きな組織、大きなお金、大きな知識、大きな地震。それらを知らない僕は、なんだかフィクション。そして、それらを諦め半分で小バカにする。
「誰だって真実を知って世界と対峙したいさ」
強大な圧力のある天を支える肉体は、きしみながら愛を奏でる。どこか遠くで『真実の愛は』と語る人々に息吹を送る。そんな夢を見ることは、なんだか僕を世界の端っこにいながら渦の只中に運んでゆく。
僕たちは、お互いに舐めくさった態度ですれ違う。通じ合わない心は、このかりそめであるはずの肉体のおかしみ因り。浅い傷で済むのだからそれでいいじゃない。奥底に触れれば、その真実の源はどこなのですか、と問いたくなる。昔の偉人は『この世の真実を知ることが出来れば、明日にでも死んでもいい』みたい
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