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『ステーキ』
ヨシユキの話
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なこと言ってたな。それの端っこでもかじったことあるのですか、あなた。僕はないね。腹の中には僕がいっぱい詰まっているだけだ。
この肉の顕すものは、何も心だけじゃない。何かもっと、この世界に漂う芳しくない匂い。昔の友人が東京に出て、顔が変わってたっけ。この街の空気は僕をどんな風に削ったのか。鏡を見ても映りやしない。その奥で人知れず育つ心は、重心を低く保つ大事なおもり。
僕には好きな言葉がある。

 あなたが想像出来る
その世界の外側にも
 真実は広がっている

「何故その顔に生まれてきて、そんな言葉を発するの? まるで映画みたいじゃない。そんな考え方する人って、なんだか神様みたい」
僕は少し膨らんだ。何故だろう、心が少し男前。

テレビでは明日の天気予報が流れ始めた。そして僕はひどく勃起した。
 その勃起があからさまに爽やかだったので、お天気お姉さんをじっと見つめていた。ペニスはすばやく硬くなって、パンツを押し上げた。前立腺は素晴らしく働いていた。僕はパンツを脱いだ。ツルリと剥けた亀頭が、艶やかに光っている。脳天に光が差しているような気がした。僕はその姿を洗面所の鏡に映してみた。十数センチが見事に屹立している。親指で下に押し下げてみたら、そいつは元気に、音がするほどはね上がった。
「この勃起は、Fカップのように満たされているじゃないか」振り返って見ると、お天気お姉さんは少しもエロくなかった。

僕はマンションの一階に、缶コーヒーを買いに部屋を出た。
 臭いを消した爽やかな香りのする人とエレベーターで居合わせる。そのいい香りは「それ以上入ってこないで」と言っている。人間には様々な入り口があって、そこからたまにレイプマンが入ってゆく。僕は死んだ魚みたいに落ち着いている。
 その人がホールの重たいドアを開けたとき、笑い声が聞こえた気がした。その音がドアの軋みだと知るまで緊張していた。この自販機のコーヒーはあまり売れないからか、ミルクが分離して浮いていることが多い。タートルネックの首を引っぱって体の臭いをかいだ。鼻の奥にまろやかな体臭。帰りのエレベーターの中で思春期が過ぎたのだと思った。こんなに平気で空気を汚している。
 廊下の切れかかった蛍光灯の端っこが、オレンジに瞬いている。映画的だね。彼らは遷ろうものが好きだからね。カントク、人生の中で何を体験してどんな風にそれが色あせていったの。僕はついさっき何故か色づいたけど。そう、さっきの勃起は何だったのだろう? 
 パソコンの前に座って、いつもの手仕事のようにプリリとしたおっぱいを眺める。僕の性欲なんて、「これはっ!」と思うエロが溢れていたら急いでパンツを脱いで一生懸命それを追いかけながら、性的感性の麻痺から逃げるようにシゴキたおさなければならない。そうしなければすぐ萎えてしまう。隆々
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