マシモの話
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。うちの先生駄目じゃない? みたいな感じでだんだん嘲笑がおきてきたんです。味方
から敵から『なんちゅうキック教えとるんだ?』って。でも、私、いまさらながら思ったんです。
あれ『未熟なインステップキック』だったんじゃないかって。で、まぁその後なんですけどね、先
生、身体鍛え始めちゃったんです。何を思ったかボディービルディング初めて、だんだん身体と顔
の釣り合いが変になっていって、それがおかしくて。その先生、元は骨格が細かったものですか
ら、首は細いまんま肩がいかってきて、首を境に二人の人間が合わさってしまったみたいでして。
これはかなり笑えましたけど。たぶんあれはかなりプロテインを飲んだはずですよ」佐古がミラー
で増藻を確認した。目を閉じていた。その後、言葉は続けなかった。
増藻は思っていた。人間はニワトリじゃない。一度突かれても、また違う方法で突き返そうとす
る。人間らしい話じゃないか。でも、俺が求めていたのは、佐古の醜い青春時代の話だったのだ。
期待はずれだな。
間々あって佐古が話した。「中学の頃ね、サッカーボールがみぞおちに当たって、あれ、本当に
苦しいもんですよね。その時 私、変な声出したから、みんなうれしがっちゃって、しばらくその
ネタで滑らなかったですよ」
「どんな声?」と増藻が訊いた。
「ぇぁふん。とかです」増藻はクスクス笑っていた。思いの外うけたようだ。
自宅から歩いて十分のところで車を降りた。雪の張り付いた車が通りすぎてゆく。洗車はしないほ
うがよいだろうか? 佐古はうまく車線変更して流れに乗った。
地下鉄を一駅ほど離れたところに貸しガレージがある。佐古はそこに車を入れた。佐古は雪の中
をコンビニまで走って、その入り口でタバコに火をつけた。「成仏 成仏」そう心で唱えながら深
く煙を吸い込み、吐き出した。
昔、タクシーをしていたとき不思議な客を乗せた。最初はテレパシーかと思った。しかしそれはあ
まりにも本人とはかけ離れていたから、しだいに別の何か、霊体かもしれないと思った。その発見
はあまりにも自然だったから、素直に信じてしまった。寒気もしない純粋な声だった。「おじさん
チンポでかい?」そう聞いてきたから、「まぁまぁだねと答えた」佐古は自分で自分を馬鹿だから
と思う。馬鹿だからこんな声が聴こえてくるんだな。「クスクス」と声が聴こえた。その後、柔ら
かな声で「商売を変えたほうがいい」といわれた。
増藻さんはいい。一緒にいるとプライドをいじられない気がする。気に障るところが無くて、し
かも私を見下してくれる。それが私には心地よいのです、増藻さん。
タバコの煙は風に吹かれ
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