マシモの話
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様が空けた穴だ。そこに落ちるものは、運命に
導かれて落ちるのだ。決して己の仕事を恥じてはいけないよ』そんな叔父にいくら資金を援助して
やっただろう」
叔父さんは冬の札幌の街中でポスターになって笑っている。雪が降っている。東京の人には分らな
いだろうが、この街の冬は雪が降ったほうが道は歩きやすい。なるべく低い気温で音がなるような
雪道がいい。中途半端に雪が降って、その後に晴れて昼間に気温が上がると、その夜には歩道が氷
の道になってしまうのだ。さっき出て行った男たちは郊外へ。街中は彼らの範疇ではない。この街
では増藻のグループは端っこのほうに隠れている。
薄汚い部屋で増藻は指先をピンとして宙に揺らした。世界に開く穴をなぞったつもりだ。そして
部屋を出る。下では運転手とジャガーが待っている。
近郊の体育館に向かうまで、増藻はホンダとアウディーの数を数えている。雪の張り付くサイド
ガラスを開け閉めして、雪を払ってまで数えている。若い男がアウディーのクーペに女の子を乗せ
て笑顔で通り過ぎた。車って素敵だね。
体育館に着くと、増藻はトランクからスポーツバッグを出してボクシング室に向かった。そこに
は殴り心地の良いサンドバッグが吊るしてある。スーツを脱ぎナイロンのトレーニングウェアに着
替える。このナイロンのウェアはシャドウボクシングをしているとき良い音がする。
ロープスキッピング3ラウンド、シャドウボクシング4ラウンド、サンドバッグ5ラウンド。パン
チングボール1ラウンド。二日に一度ここにくる。午前中のこの部屋は誰も人がいない。心を盛り
上げるにはもってこいの場所。たまにいるんだ。ひどくあからさまな敵愾心をもってしてサンドバ
ッグを叩く奴が。そう言う奴にふれたくない。「どうだ? 俺のパンチ。なかなかいい音たてるだ
ろう?」そう言いたげな人がいるから。
昔、東京のボクシングジムに一人の若者と刺青の入った二人連れの男がいた。二人はまじめな先
輩ボクサーの戦績を笑った。若者もつられて笑った。心地よい風が吹いた。その風は花粉を運ぶよ
うに一つの運命を新たな世界に連れて行った。だから彼は今ここにいる。「マッシモなら勝てるん
じゃない?」そう笑う二人は増藻の股間に目をくれていた。四勝六敗。四勝六敗、シロ。色の白い
ボクサーだった。
シャワーを浴びた増藻はデニムとダウンジャケットに着替えた。スーツはやさしくジャガーの後
部座席に置いた。郊外のマンションまで二十分。時計は十二時を少し回るだろう。そこには温かな
食事が待っている。そんな女がいて、増藻はたまにその女に乗っかったりする。彼女は東京でアダ
ルトな
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