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カーボンフェイス
第二章 グヴェン雑貨店AM:3:00
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---------店先に立つその男の顔を見た途端、グヴェンはさっきまで自分の中に巣くっていた興奮などすっかり忘れてしまっていた。顔全体が炭化しているのだろうか、硬質化した表面のわずかにひび割れた隙間から赤い身の部分が見えるのがなんとも痛ましい。考えたくもないが顔全体があかぎれたりするときっとこういうことを言うのだろう。唇のないそのおぞましい口からは行き場を失ったよだれがダラダラと滴り落ちている。瞼のないその目はギョロギョロたえず動き回りまる様子はまるで昔読んだコミックの化け物だ。

確かに目があった。むき出しになった眼球は確かに彼を捉えていた。瞼がないから、瞬きができないのだ。血走った双眼はグヴェンの持つマスケット銃の震える銃口に向いているようだ。


「お前は…なんだその顔は!何の冗談だぁぁあぁ!」
グヴェンは叫んでいた、威嚇のためではない。正気を保つため、気を失わないために声を出していた。彼の声で店の商品が震えて音を立てる。彼はカウンターの隅に置かれた通話機を手に取り、保安官事務所に連絡を取ろうした。が、ダイヤルに手をかけたところで彼の手はぴたりと止まった。ドアとは反対側の壁に一枚の鏡がかかっているのだが、ちょうどそこから男の姿が見えたのだ。ドアの向こうの男が動いた。相変わらず視線はこちらのままだが何かポケットから探しているように見える。


かちり、かちり。


あの音だ。彼を起こし、何度も何度も聞こえた音。

男の手元に鈍く光る物があるのをグヴェンは見逃さなかった。鏡越しではあるがはっきりと目に留まった。あの光りはたまにグヴェンの雑貨屋に買取依頼で持ってこられる銀細工の様だ、彼は直感的にそう感じた。


かちり、かちっ。


その音で彼が我に返り、再びその指の先端がダイヤルに触れようとしたその瞬間、ドアの前の男の足元が勢いよく燃え上がった。ただの炎ではない。ドス黒く不純物を含んでるかのような汚い炎だった。グヴェンは音にもならないようなか細い悲鳴を漏らし、勢いよくドアの前から飛び退った。どくんどくんと高鳴る心臓は今にも口内から飛び出してしまうかのような勢いだった。彼はマスケット銃を両手で抱きしめ一目散に店の奥へ、自室へと走り去った。去り際に鏡に目をやると、男はじっとこちらを見つめていた。熱でゆらゆらと揺れる空気を通すと、男の顔は歪み、笑っているように見えた。





 その5分後、グヴェンは小便を漏らしながら朝までマスケット銃を抱いたまま自室の床で震えていた。踏み砕かれた自分のコレクションや、店先に放置された昨日の客の男のことに気が付くのは、日が昇ってからのことだった。

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