第二章 グヴェン雑貨店AM:3:00
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のようだ。音がどんどん大きくなってきている、ちょうど今、店の真正面、少し横ぐらいだろうか。
グヴェンは物音を立てないようにゆっくりと一階にある台所を通過していった。錆びついた流し台の上に昨日食べかけのラザニアがそのまま放置されている、昨日はマーケットに行く気分にもならず売り物の缶詰を開けたのだった。もともと遅めの夕食にと用意したのだが、駆け込みの客に対応していたため、そのまま食べるのをすっかり忘れてしまっていた。
グヴェンは震える手で陳列棚の奥に隠したマスケット銃を取り出した。17世紀後半に作られたフリントロック式の年代物だ。スラリと伸びた銃身はしっかりとした木材で作られており、アジアでいうところの「ヒナワ」というモデルの銃によく似ていた。精巧に塗られたニスにより古来からの艶やかさは失われていなかった、グヴェンの丁寧な保存のおかげともいえるだろう。震える手が棚に当たり、並べられた木苺のジャムやブレスレットなんかがせわしく音を立てる。私は、私のコレクション達を守ってみせる。私の女房と子供が出て行ったのは私のコレクションを彼女が触ろうとしたことを強く叱責したからだ。女房と子供が去り、私の元には再びコレクションだけが残った。満ち足りた日々だ、もう二度と伴侶は持つまい、彼はそう心に決めていた。
どさり。
入り口の近くに何かが置かれた音がした。グヴェンは確信した。不法投棄だ。最近家の前に見知らぬゴミを捨てて行く輩がいると、グヴェンこないだ近くのバーで耳にしたことがある。なんともけしからん奴がいるものだと思ってはいたがよもや自分の店にも、彼は奮い立ちマスケット銃を強く握りしめ、ガラス張りのドア越しに外を覗いた。
確かに、人影があった。ドアの前に立つ男が何かを店先に置いていったのは間違いない。表には街灯もないため、その男の顔こそよく見えないが、発砲の理由にはそれだけで十分だ。かねがね、グヴェンはこのお気に入りのマスケット銃をぶっ放してみたいと思っていたのだ。埃を被らせておくなんてもったいない、この細い銃口から鉛玉をぶっ放せば人はどんな風に爆ぜるんだろうか。いやいや、一度では死なないかもしれない、そうなるともう一丁、どこかから仕入れてこないといけないな、なんてことをよく店先で空想したものだった。
なに、仮にうっかり殺してしまってもまたツーカーの保安官に金を握らせ揉み消してもらえばよい。法律のことはよく知らないが確か、敷地内の進入禁止とかいう罪になるはずだ。ドアの前に立ち、彼はバスケット銃を構え叫んだ。
「いいいいぃぃぃ!店を間違えたようだな小僧ォ!貴様の腹を裂いて、貴様自身の腸で首をしめてやる!」
瞬間、グヴェンは息をのんだ。炭の顔、それ以外に形容のしようがなかった。焼け焦げて無残にただれた顔、焼き切られ落ち窪んだ鼻や口--
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