第四話、未来の記憶
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て、そこからまるで助けを求めているかのように、手が突き出されていた。
「ぁ…ぁぁぁ……」
本能的な恐怖に、青年は身を震わせた。
『……ケ…テ……』
「…え…?」
不意に、どこからともなく声が聞こえてきた。
『タス…ケ…テ…タ…スケ……』
それが助けを求める幼い少女のものだと頭が理解して、青年の体は勝手に動きだしていた。目の前の瓦礫の山を掻き分けて、声の主を探す。
「ハァッ…ハァッ……くそ…死なせて、たまるかよ……これ以上、これ以上は…!」
自分が防げなかった。自分が守れなかった。自分が倒せなかった。自分のせいで、自分が弱かったせいで、数えきれない命が亡くなっていった。
一人でもいい。誰でもいい。誰か、誰か生き残っていてくれ。
「はぁ…はぁ……っ、見つけた!」
三個目の瓦礫の山から、声が聞こえた。急いで、傷だらけの両手を突っ込んで掻き分ける。そして、僅かに動く子供の手が見えて、青年は夢中で引き抜いた。
『…オ"ニイヂャ……ン…ア"、リガ…ド…』
「う…ぁぁ…ぁぁぁ…うわぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
助け出した少女の姿は、もはや人間の形を成していなかった。華奢な両手両足はあっちゃいけない方向に曲がり、細い首はへし折れて、痩せた腹からは肋骨が突き出していた。
その少女は、ゴヒュー、ゴヒュー、とまるで獣の唸り声のような呼吸を数回繰り返したあと、息を引き取った。
「俺が…やった……俺が、この少女を……こんな、姿に…」
ツウ、と青年の頬を水滴が撫でた。溢れ出る涙を拭くこともせず、青年はただ、異様な形になってしまった少女を見続けていた。
「……まだ……」
やがて、青年がそう呟くと、震える足で立ち上がった。そして、何処へともなく歩き始める。まだ生きている人がいるかもしれない。なら、救わなければならない。そして、謝らなければいけない。すまなかったと、自分の力が足りなかったばかりに貴方の大切な人を殺してしまったと。
「まだ…まだだ……誰か……誰か…」
譫言のように繰り返しながら、青年は滅んだ世界を歩き回った。その傷ついてもはや使い物にならない手を懸命に動かして、瓦礫の山から人を引っ張る。だが、ついに生存者は見つけることはできず、そして、青年も、自らの相棒を刃に変え、胸に突き刺して死んだ。
乾いた風が、動かなくなった青年の髪を揺らした。
「……ふむ…想像以上に過酷な記憶であった」
真っ白な空間。天上の神々の座す聖なる神殿の最奥ーー最高神オーディンは自らの席に座り溜息をついた。厳ついつくりの顔を更に険しげな表情に変え、いつの間にか皺が寄ってい
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