マザーズロザリオ編
episode6 そら
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にふわりとした重みを感じた。悲鳴なり奇声なりを上げて現実逃避をしている時以外は一応仕事中に邪魔してくることのない彼女にしては珍しい。
「ん、チビソラか。どした?」
「邪魔しちゃ悪いかなっ、って思ったんだけどっ、あんまり楽しそうだからさっ!」
「ああ、これか?」
既に、いつもの雑誌の原稿の何倍もの字数を書いている。それでもまったく手が止まることなくキーボードを叩き続けられる上に、あまりの楽しさに少々ニヤけていたかもしれない。そんな状況なら誰だって問いたく……ともすれば正気を疑いたくなるだろうが、だって仕方ないじゃないか。
なぜならこれは。
「SAOの、記録だよ。あの頃の知り合いから連絡があって、あのゲームの中での出来事を本にしよう、ってな。俺は一応『攻略組』のソロ連中の近くにいたし、クエストもかなりこなしてたんだよ。だから割といろんな奴に面識あるし、ボス戦とかの話もいろいろ聞いてるから、色々書けるしな」
嘘では無い。嘘ではないが、本当でも無い。
もちろん向こうの頼みもあって、攻略組に少なくない数いたソロの勝手者のエピソードを書いてもいるし、キリトの記事は腹いせに勿論脚色しまくってはあるが、それだけでは無い。
「ふーんっ。楽しそうだねっ!」
「まあ、な」
俺が、主軸に据えて書いているもの。それは。
「中身の方はっ、教えてよっ!」
「だーめだ。お前には、特に」
「ひっどーいっ!」
言いながらも、チビソラは笑っていた。分かっていたのかもしれない。
俺が書いているのが、懐かしい「ソラと『冒険合奏団』の物語」だということに。
チビソラの笑顔。
その笑顔が。
「っっっ!?」
ざわりと、ぶれた。
まるで、かつての世界の、HP全損エフェクトの様に。
浮かれていた気持ちが、一気に冷える。
だが、そんな俺に。
「おおっ! おおおーっ! これはっ、おめでとーっ!」
チビソラは笑いかけ続けた。心底、嬉しそうに。
「説明するよっ! ご存じのように私はシドくんのメンタルカウンセリングプログラムっ! だからさっ、シド君の心が元気になったらっ、お別れなんだよっ!」
「なっ、おいっ、何を、」
「笑ってっ、シドくんっ! シドくんは今っ、ソラさんの死をやっと乗り越えたんだよっ! 少なくとも私の中の感情モニタリング機能が「この人には私がいなくても大丈夫」って判断できるくらいにっ。だからそれはっ、喜ぶべきことなんだっ!」
「チビソラっ!」
突然の、声。その声は、震えていなかった。
感情豊かなチビソラの、弾むような声のままだった。俺を励ましてくれる、力強い声だった。
その、一生忘れられない笑顔が。
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