マザーズロザリオ編
episode5 『勇者』2
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信じての、賭け。と同時に、訪れるはずの硬直時間……を。
「るああああっっっ!!!」
更に、絶叫で突き動かす。右の手首に集中していた意識を、無理矢理に左半身に切り替える。
キリトの、不可思議な連撃ソードスキル。
アレは、右と左の剣を交互に繰り出すことでその硬直を無効化しているのではないか。
ならば、俺にも同じことができるはず。《クラッシュ・バインド》は、手首から先だけで発動できる技だ。そして俺の、むき出しになった左の拳は胴体に惹きつけられ、爪が食い込むほどに強く強く握り込まれている。体勢は、整っている。
「あああああっっっ!!!」
「うおおおおっっっ!!!」
《体術》スキル、《トラジディ・デストロイ》。
その神速の拳が、キリトの頬を撃つ。
キリトの剣も、止まらない。ソードスキルではない為に、途中でその剣を不規則に弾いても、もう片方の剣だけで動き続ける。左の剣が掴まれて連撃を途中で止められたのを見て、次の右剣を最後の一撃とするべく、蒼剣の強烈な突きが繰り出される。
「らああああっっっ!!!」
「るおおおおっっっ!!!」
衝撃。
轟音。
その響きは音を、光を、仮想世界を超えて、俺の魂そのものに響き渡った。
◆
二つの力の炸裂した後には、一転して静寂が訪れた。
その、世界が死んだような静けさの中で、口を開いたのは。
「俺の、勝ちだ、シド……」
「ああ…俺の、負けだよ。キリト……」
俺の左拳が深々とめり込んだ右頬を歪めながら、キリトは言った。そのHPは、僅か数ドットだが、確かに残っていた。対する俺の体はキリトの長剣に深々と貫かれ、HPは完全にゼロになっていた。右手に握った剣は、その美しい刀身に無数の罅を刻みつつも、その身を保っていた。
俺の、完敗だった。笑ってしまうほどに。
「泣くなよ、シド……」
言われて初めて、自分が泣いていた事を知った。
既に襟に捲いたグレーの布までびしょ濡れになるほどに、号泣していた。
その理由は、俺にはよくわからなかった。
「……ありがとうな…『英雄キリト』……」
礼を言った理由も、そうだ。何故かはわからない、けれども、感謝していた。
体がエンドフレイムとなって消える、その瞬間。
既にもう視界も真っ暗になって意識が落ちる直前の俺の心に。
「…やっぱり、お前だって、『勇者』の一人だよ。お前がたくさんの人の……『彼女』の思いを背負っていくように、俺だってお前の思い、全部背負っていくからな……だから…ありがとう、親友……」
キリトの呟きが、確かに聞こえた気がした。
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