マザーズロザリオ編
episode5 『勇者』
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
ゆっくりと、目を開く。
Mobのそれと化した俺の瞳が、迷宮区の闇の奥から近づく彼らの姿をしっかりと捉えていた。その全員が、嫌というほどに見覚えがある顔。ユウキ、シウネー、ジュン、テッチ、ノリ、タルケン。アスナ、リズベット、クライン、シリカ、エギル、リーファ、シノン。
そして……。
最後の一人をその目で見る直前、頭が、ぐらりと揺らいだ。
連日夜通しこの迷宮区に張り付いているせいで、まともに寝れていないせいだろう。
現実での俺の体に、既にもう限界が間近まで迫っていることを示していた。
けれど。
(まだ、だ……)
まだ、眠るわけにはいかない。
俺には、為すべきことが、あと一つだけ、残っている。
歯を……いや、Mobのものとなった牙を食いしばり、必死に目を凝らす。
(…………っ……)
その先に映るのは、黒髪の影妖精。
ぼんやりとしか見えないその顔がなぜか、こちらを向いているかのように俺は思った。
それを感じた瞬間。
俺の体は闇を払って、一気にその姿へと突進した。
◆
俺は、ずっと不思議に思っていた。
この『二十九層の魔物』についてのことだ。
いくつかのオカルトじみた伝説をもつそのネームドMobに、俺は是非一度一度会ってみたかった。今回ボス部屋前までの同行を買って出たのは、もちろんアスナやユウキ達に万全の状態で挑んでほしいからというのもある……が、そこにはその《グラン・ダークリザード》と手合わせしてみたかった、という自分の都合が少なからず入っているだろう。
まるで狙ったかのようにメイジ……それも詠唱中のメイジを狙い打つ頭脳。一瞬で背後に回りこみ、その命を絶つ超高レベルの《体術》。《挑発》系の特技を無効化……いや、壁戦士自体を掻い潜る様にしての移動。そして、大技ソードスキルはおろか単発の通常攻撃をもかわす回避能力。そんなものがAIに可能なのか、見てみたかった。
そして、今。
「っっっ!!!」
闇から突進してきた、漆黒の鱗を持つ怪人。
その鋭い牙を、尖った爪を、そして憎悪に燃える目を見て、分かった。
(……知ってる……っ!?)
俺は、そいつを知っていた。
勘だけで咄嗟に構えた剣がその鋭い爪と噛みあって火花を散らす。
「キリト君!?」「出たかっ!?」「は、速いっ!?」
瞬間、理解した。
その、まるで宙を舞うかのような動作。
一切の無駄のない、卓越した身のこなし。
そして何より、その血走った目から感じる、隠し得ない恨み。
こんな目が、Mobに出来るはずがなかった。
こいつは。この男は。
「……アスナ。先に
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ