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ソードアート・オンライン 〜無刀の冒険者〜
マザーズロザリオ編
episode5 『勇者』
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キリトだと確信できたように。

 無言のまま、その姿を現す。
 そんな俺に、なおもキリトが続ける。

 「……久しぶりだな。……なんていうか、凄く、お前らしいよ。これが、」

 その言葉を、俺は遮った。
 無言で伸ばす、銀色の右手で。

 それだけで、キリトには伝わるだろう。

 「っ、……」
 「………」

 取るのは、両手をだらりと下げて、膝を曲げる、独特の構え。その構えは、あのころからずっと変わらない、俺の本気の戦闘態勢。そして、右手に嵌る《カタストロフ》は、デュエルや模擬戦ではない、本気の戦いでのみ持ち出した、俺の相棒。

 「……シド……本気、なんだな」

 それを見たキリトの目が、悲しそうに揺らぎ……そして、鋭く光った。

 瞬間、右手がストレージを操作したのか、背中に流麗な長剣が出現した。左手がゆっくりと動く。澄み切った音を立てて抜き放たれて構えられるのは、黄金に輝く刀身を持つ豪華な片手用直剣。この世界で間違いなく最強の剣である伝説級武器、《聖剣エクスキャリバー》。

 いつもは見せない、奴の二本の愛剣の片割れ。
 《カタストロフ》と同じように、強すぎる故に封印されている武器。

 その、いかにも「勇者の剣」といった、俺では気後れするような剣を構える目の前の男は、どこから見ても立派な『勇者』だった。憎らしいほどに、腹立たしいほどに、『勇者』だった。

 だから。

 (……相手にとって、不足は無し、か)

 この『勇者』こそが、俺が一発ぶん殴ってやるべき相手だ。

 構えて、一秒。
 二秒。
 三秒。

 「おおおっ!!!」
 「はああっ!!!」

 響いた絶叫は、同時だった。
 石造りの地面を吹き飛ばさんばかりに地を蹴っての突進。

 瞬間、俺の銀色の光と、キリトの金色の光が、激しく火花を散らした。



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