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マザーズロザリオ編
episode5 『魔物』
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 三秒を数える前にその体が音も光も残さずに、消滅した。





 『二十九層迷宮区には、「魔物」が出る』。

 その噂は、瞬く間にALOに広まっていった。闇妖精(インプ)領の最難関ダンジョンのMobである《グラン・ダークリザード》の亜種と言われたその獣人型Mobは、高い《索敵》と《隠蔽》、そして多彩な《体術》スキルを操る強敵で、かなりの上位ネームドMobと目された。

 だがそれでも、最初は「ただのちょっと強いネームドMob」だと思われていた。

 最初に犠牲者を三人出したトップギルドはすぐさま部隊を編成、今度は四人で赴いた。
 それがやられた次の日、別のギルドがワンパーティーでの攻略に臨んだ。
 その更に翌日は、最初のギルドがなんと二パーティー、十四人で狩りに繰り出した。

 ……そして。

 その全てがことごとく甚大な被害を受けて撤退することになって、そのネームドMobの認識は改められた。単なるモンスターとは大きく異なる、強力なスキルと異常な機動力。そして何よりも、全く行動が読めない、特殊極まりない高度なAI。

 ボス部屋を守護する、門番。
 或いは、ボス以上の強敵となる、『魔物』。

 その出現によって、ボス攻略ギルドは今までの攻略方針……すなわち中小規模のギルドを露払いとして用いてその情報を盗み見る、ということが不可能になった。強烈な索敵能力を持つそのリザードのせいで、ボス部屋前での潜伏自体が出来なくなったためだ。

 その存在の本当の正体に気付いた者は、この段階ではまだ誰一人居なかったのだが。





 現実世界での時間は、既に深夜二時を回っていた。回っていた、が、それでもまだまだ迷宮区を訪れるプレイヤーは一向に減らなかった。明日も平日だぞ、さっさと寝ろよな……と、自分のことを棚にあげての愚痴を、心の中で盛大に呟く。

 目の前に見えるのは、七人のワンパーティー前を行く索敵担当らしい偵察兵が三人、攻撃特化の武器攻撃戦士が両手剣と長槍の二人、スカウトダメージディーラー火力か支援かは分からないが魔法使い(メイジ)が二人。敵ながらバランスのいいパーティーだ。

 それにしても。

 (……すげえな、この体……)

 今、己の体を包んでいる魔法の効果に、俺は舌を巻いていた。
 影妖精(スプリガン)の幻属性魔法の一つ、体をMobに変更する呪文(スペル)だ。

 その種類は自身のスキル熟練度に依存するために、何度も繰り返し使っていればなんとなく自分が変身するMobの姿は予想できるようになる。

 俺の『ラッシー』のスキル熟練度でなれるMobは、《グラン・ダークリザード》。いや寧ろこのMobに変身するために、各種のスキル熟練度を調整している、といったほうが正しい
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