マザーズロザリオ編
episode4 曇天
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います…」
とうとうポツポツと雨の降り始めた空を仰いで、睨みつける。
神様ってやつがいるなら、俺は声の限りに非難したろう。不平等だと叫んだろう。
俺は殺されたっていいから、代わりに彼女を助けてくれと懇願しただろう。
だが、そんな都合のいい存在なんて、どこにもいやしなかった。
「……っ」
俯いて、雨を見もせずに一歩踏み出す。
出来過ぎた従者の牡丹さんが、俺が濡れないようにと傘をさす。彼女が寄り添うように、しかし俺を気遣って肩の触れない距離を保って歩む。俺の方ばかりに傘を寄せるせいで、彼女の逆の肩はもうびしょ濡れだった。
「……帰りましょう。今日はもう、休みましょう」
その気遣いにすら、苛立ちを覚える。
今更俺が休んだところで、ユウキの病状が安定する訳でもないし、ましてや彼女に笑顔が戻るわけでもない。むしろ俺が休むことは、勝ち目のない戦いを今も続ける彼女に対する酷い裏切りではないかとすら思えた。
「……牡丹さん。行くところがあるので、先に帰っていて貰えませんか?」
分かっている。この苛立ちが、単なる八つ当たりだということに。
それでも、こうでもしないと、俺は壊れてしまいそうだった。
「お送りいたします。どこに行かれるのでしょう?」
「……『四神守』の名において命ずる。我が従者、『神月』。先に、帰れ」
「畏まりました。我が主人の命ずるままに」
彼女の、例の『スイッチ』すら使っての、暴言。
その暴言に、彼女が頷く。
この「命令」をしてしまえば、彼女は逆らえない。
それは彼女の存在意義であり、存在証明なのだから。
その決定を覆すことは、彼女には不可能だ。
不可能、なのに。
「……」
……しかし、精一杯の抵抗なのか、傘を無理矢理に俺の手に押しつけてきた。
勿論、俺はここに来るのにもともと傘など持って来ていない。
牡丹さんの用意してくれたものだ。強くなり始める雨が、彼女を叩く。
「……」
俺は。
「……っ……」
その傘を、三歩も持ち続けることが出来ずに、取り落としてしまった。
拾うことすらせずに、そのままふらふらと歩いていく。
そんな俺を、牡丹さんは深く一礼して、濡れたまま見送ってくれていた。
◆
深夜の街を、俺は濡れながら歩いた。
こんな馬鹿なことをするなど俺には一生縁がないと思っていたが、そうでもなかったらしい。
当然、行くあてなど無かった。
ただただ、何も考えずに、自分の体を痛めつけていたかった。
少しでも、ユウキの苦しみを、肩替り出来ないかと。
――― ヴヴヴヴ、ヴヴヴヴ。
携帯が震えた
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