士官学校の天才
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午後の授業が終了すれば、平常であれば食事までの僅かながらの休息がある。
しかし、今日はそれもとれないらしい。
来月に控えた戦術シュミレート大会の顔合わせのため、普段は入らない上級学生の校舎へと足を延ばすことになった。
5−23小会議室か。全生徒のために部屋を用意するのは不可能であろう。
それでも小会議室が指定されたことは、さすが最上級生の学年主席だからか。
平等なわけがない。そもそも士官学校は、中学校や小学校と違い金を貰っている。
優秀な成績であれば、それに応じた便宜が図られるというのは当たり前なのだろう。
ノックを一度して室内に入れば、二人の姿が見えた。
最上級生のマフラーをつけたのがマルコム・ワイドボーンで、最下級性のマフラーをつけたものが緊張しながら、後ろで立っていた。
座ればいいのに。
「二学年、アレス・マクワイルド候補生まいりました」
「ん。おお、君があのマクワイルド候補生か」
「あの?」
「話は窺っている。戦術シミュレーターでも三次元チェスでも負けはないらしい。私の友人が君に挑んで、参加料を巻き上げられたと嘆いていたよ。今回は君には大きく期待している」
随分と好意的な印象があるようだ。
「私はマルコム・ワイドボーン候補生。今回君の司令官となった」
「よろしくお願いします」
軽い会釈をして、ワイドボーンを見た。
学年主席とあって、さすがに頭だけでなく身体も鍛えているようだ。
細身の体つきにはしっかりとした筋肉が付いている、意志の強そうな顔立ちは太い眉によるものか。温和というより我の強さが見て取れた。
マルコム・ワイドボーン。
ヤン・ウェンリーの同期として優秀ながら、理に頭をおいて戦術思考の硬直と補給の軽視により ヤンに敗れた。
それでも破れたのは、その一回だけだ。
実際に過去のデータを見れば、彼は原作で語られるほどに無能ではない。
補給線を大事にしないという点は、彼がそれが問題だと気づく前に全て勝利を収めるからだ。だからこそ、それの重要性に気づかない。
いや、気づけと言う方が難しいのだろう。
現状では自分のやり方でそれなりには上手くいってしまうのだから。
だからこそ、ヤンに負けた一戦は自分では認められることが出来ず、それが原作では死ぬまで続いてしまっていた。
「ぼ、僕は――私は一学年のリシャール・テイスティアと言います」
少し考えこんだアレスに対して、小さく首を曲げたワイドボーンの言葉が、後方からの大声にかき消された。
そこまで緊張しなくてもとは思うが、絞りだした言葉は震えている。
緊張をあからさまに表に出した少年は、会議室の後方で小刻みに震えている。
大きく開いた目が瞬きすらも忘れて、こちらの言葉を待っ
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