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カーボンフェイス
第一章 バブルキット
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は思わなかった。なんでも彼はドラックをとびっきりの安価で裏路地の連中に売りさばいているらしい。

「あまり目立った動きはしないでくれよ、さっさと売ってさっさと出て行く、いいな?ただでさえ、お前のような服のセンスの男はこの街じゃ浮くんだぜ?」

 デイビットは札束を受け取るとあたりを見回し短く言った。デイビット自身、この手の取引は初めてではない。むしろこの保安官事務所自体が裏路地やこういった商売とは切っても切れない関係だった。裏路地で起きたトラブルは裏路地で解決させる、そのかわり保安官は金を受け取りそれを黙認する。この関係で街の治安は守られていた。今回の事件で問題なのはそこだった。本来、裏路地で解決すべきところであるこの連続殺人事件の死体は、すべて表通りに晒されていたのだ。そうなると保安官は動かないわけにはいかない、表通りの治安を守るのが保安官の務めだ。
 そのことで、デイビットは頭を痛めていた。少なくとも、こういう形で死体を晒す以上裏路地のルールに従う者、スザナの傘下ではないことになる。彼女の傘下であればこのようにスザナに弓を射るようなことをするはずがない、できるはずがない。彼女はイカれてる。敵に回すとどんな目に合うかわからない、そして、それはデイビットや他の保安官にとっても同じだった。

「デイブ!ちょっと来てくれ!」
コーヒーに丹念にガムシロップ垂らしていたデイビットは声の方を振り返った。
息を切らせ彼を呼びかけたのはすっかり馴染みの同じ保安官、ケビン・コーファックだ。
すらっとした中年の保安官助手は今まさにデイビットが口に運ぼうとしていたコーヒーを一瞥し顔をしかめた。
「おいおいデイブ、お前、かみさんに言われてダイエット始めたんじゃなかったのか?こんなもん飲んでるくらいだったらまだダイエットコーク飲んでる方がましだぜ。」
「ダイエットコークはもう試したよ、そのあと体重が5ポンド増えた。」

「なに、本当か?隣のベティがダイエットコークは糖分が入ってないから手を洗ってもサラサラだ、って言ってたぞ。」
もちろん、彼女もお世辞にも痩せてるとは言えんがな、と彼はつけたしデイビットの腹をまじまじと見るのだった。ケビン・コーファックはデイビットとは対照的な男でいわゆるエリート組と呼ばれる男だった。州の警察署に所属し上の腐った体質に意見をしてこの保安官事務所にとばされるまでは。彼は極端に真面目な男だった、もちろんユーモアはあるしかたくなに頑固というわけでもない。ただ、彼は極端に悪を憎み、不正を決して許さなかった。

「デイビット、5人目の被害者だ。手口は同じ、顔を焼き切られてる。ここからそんなに遠くない場所だ、行って現場付近を確認しよう。」
さっぱりとした短髪に聡明な顔つき、おまけにパリッとした制服。すべてが彼の性格を物語っていた
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