本編 第一部
二章 「恋と危険は何故か似ている」
第九話「豊村伊佐の過去」(前編)
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うになった。中には蛇や、熊なんかもいたが、どうしてかこの子の前ではおとなしかった。ときどき、大量のカラスや、いろんな鳥類を従えて、思うままに操っているのを見てわしは正直末恐ろしかった」
「ちょっとまってくれ、じいさんあんまりすらすらいうもんだからもう頭がついていけん」
「ああ、すまんのう、わしも伊佐の事となると印象が強すぎて、口が多くなるのでな」
「じゃあ、その化け物が伊佐に取り付いたせいで伊佐はとんでもない力や心を持つようになったっていうのか?」
「そういうことじゃな」
「でも、おれと中学で一緒にいた、伊佐はまあ、すこし度が外れているが。そんなにいろんなとこで人の目にとまるようなことはしてないぞ」
「当たり前じゃ、中学になるころには伊佐は本当の自分を隠すようになったからな。じゃが剣持とかいう不良がこいつに目が合って逃げ出したというのはきいとるぞ」
「じゃ、そのものすごい幼児時代の伊佐が、どんどん強くなって、現在に至るということなのか?それからその化け物ってのは、それにイルミナティ?伊佐はそんな小さな時からそんな組織に狙われてたのか?」
「実際には狙われてたというより、危険視されていていたという方が適切じゃ、なんでもこの世界には、世界中で確認される特定の実体のない精神的存在、つまり教会側が「悪魔」とか「天使」とかいっておる、何千という存在がいるらしいのだ。そして明らかに伊佐にはその精神的存在の一つが宿っているとみられていたのだ。まあ、だがまああせらず聞け。おまえが伊佐と本当に一緒にいたいならまずこいつのことをもう少し知っていてほしいからな」
「よ、よしわかった」
見ると、伊佐もこくっとうなずく。
「そして伊佐も二歳になった。体の動きはとにかく力が強くてすばしこかった。飛び上がれば屋根にもあがれたし、拳を振るえば木が倒れた。この頃にはもう伊佐は美人の兆候を見せていた。髪は黒く長く流れるようで目はランと光を帯び、目鼻立ちはきれいに整っていた。そのころすこし反抗期のようなところを見せていたので、わしは伊佐に武術を教えた。するとこの子ははじめこそおぼつかなかったが見る見るうちに上達した。周りの子供は、伊佐が次々と面白い遊びを考えるので、みんな伊佐のあとをくっついてあそんでいたさ。さて、三歳からの伊佐の成長は目覚しかった。言葉はほとんどしゃべることも読むことも書くこともできるようになり、その頃の伊佐は哲学や思想や宗教にとても興味を持ち、いろんな本を読んだ。物語も子供向けなものではなくかなり難解なものを読むようになった。
だが伊佐の心は相変わらずの天衣無縫で、底抜けに明るかった。そんでもって執着心というものがかけらもない。おなじ組の男の子でさえ、伊佐の堂々とした振る舞いは、すこしたじろぐぐらいだ。伊佐は、およそ、自分のために怒ったり、嫉妬を起こし
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