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ニュルンベルグのマイスタージンガー
第二幕その二十
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第二幕その二十

「それもその通りです」
「その間に靴はできていきますし」
「それに」
 ここで窓の方を見るとエヴァ、実はマクダレーネが去ろうとしている。ベックメッサーはそれを見て慌てて窓の下に戻りまた歌いだすのだった。
「また歌いますぞ」
「はい、どうぞ」
 彼等はそれぞれ言い合いそのうえでまた歌いはじめるのだった。
「今日私の心は踊り」
 ハンマー。
「若き乙女を求めんとす」
 ハンマー二回。
「だが父上はそれに」
 ハンマー。
「一つの条件を出せり」
 数多くのハンマー。
「彼の後を継がんとし彼の美しき娘を手に入れる為に」
 ハンマー二回。
「父上は条件を定めたり」
 ハンマー数多く。
「この町の見事なマイスタージンガーにしてかの娘をせつに愛し」
 ハンマー数多く。
「芸術にもその才の優れたるを示し」 
 ハンマー間断なく。
「マイスターの歌の道に賞を得る者ならずば彼の婿とはなりがたしと」
 ハンマーが続く。ベックメッサーはむっとするがそれを無視して歌を続ける。
「今や芸術のいさおしを示し人々の同情を得て」
 まだハンマーが続く。
「いとうべき妄念のもやを払い」
 ハンマーがまだ続く。
「誠の情熱を以って乙女を求める者に乙女を得んとする者に」
 ザックスは首を横に振ってそのうえでもういちいち誤りを指摘することを諦め靴型の楔を抜く為にハンマーを打ちまくっていくのだった。 
 ベックメッサーはその間ずっと不快な顔をしている。しかしマグダレーネがまた消えようとするので困惑した顔になる。ここで歌が終わった。するとザックスがすぐに声をかけてきた。
「終わりですか」
「はい」
 顔を顰めさせて答えるベックメッサーだった。
「それが何か?」
「御覧下さい」
 ザックスはさも嬉しそうに彼に靴を掲げて見せるのだった。
「これこそまさに記録係の靴ですぞ。どうでしょうか」
「それがですか」
「そうです。長く短く刻み込まれ」
 こう言葉を出していく。
「靴底に書かれたこの言葉」
「それは何ですかな」
「よく読んで忘れずに御心に刻んで下さい」
 こう前置きしてからまた言うのだった。
「よき歌には拍ありてこれを砕く時は筆を持つ書記殿の為に靴屋が皮を打つ」
「どんな意味ですか、それは」
「いい靴ができたということです」
 明るく述べるザックスであった。
「靴底は拍を保って書記さんの足は痛むことなし」
「随分と嫌味ですな」
「嫌味ではありませんよ」
 今度は涼しい顔になるザックスだった。
「そのままの意味で」
「私とてマイスタージンガーです」
 何とか己を保ちつつ言葉を出すベックメッサーだった。身体をワナワナと震わせながら。
「九人のミューズを呼び出し我が詩の英知
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