第九章 双月の舞踏会
第九話 伸ばされる手
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ゴイルの群れは、もうその姿が常人の目であっても判別出来る程の距離まで近づいていた。
「―――……何をすればいい」
近付いてくるガーゴイルの群れに視線を向けたまま、タバサが短く問いかける。
少し掠れた声は、何時もよりも何処か小さく、そして少しだけ震えていた。
「氷の矢を作ってくれ。出来るだけ頑丈な氷の矢を五十四本」
「わかった」
疑問も何も口にすることなく、タバサは士郎の頼みに頷く。
タバサの魔力も限界に近かったが、ただ氷の矢を作るだけならば、まだ不可能ではなかった。
その矢を狙い飛ばすことは不可能だが、その前、氷の矢を作るだけならば、まだ可能であった。
「出来る度に渡してくれ」
シルフィードの背に手を置き、士郎はゆっくりと立ち上がる。冷たく激しい風が全身に当たり、更にシルフィードの揺れる身体にバランスが崩れるが、立ち上がった士郎はゆっくりと息を吐きだし目を閉じた。意識を内に、足の裏に感じるシルフィードと一体になるイメージを浮かべる。
ゆらゆらと揺れ動く士郎の足元が、まるで吸い付くようにシルフィードの背中に張り付く。
シルフィードの身体の動きと士郎の身体の動きががピタリと一致する。
「投影開始」
左手に黒弓が生まれる。
迫るガーゴイルの群れは、今はもう拳大ほどの大きさになっていた。
接触まで後一分弱。
だが、士郎の顔に焦りは―――ない。
左で弓を構え、右の手を前に出す。
右手に、冷たく硬い感触が触れ―――。
氷の矢を放つ。
一、二、三、四、五、六、七、八、九…………。
風車のように士郎の左手が回り、一秒毎に一回転し、その度にガーゴイルの頭部が砕け地に落ちていく。五十を超えるガーゴイルが目前に迫っているにも関わらず、士郎の顔に焦りはなく、矢を射る姿に力みも緊張も何も見えない。無造作に氷の矢を射る。放たれた氷の矢は、一つとして外れない。それはまるで、既に決まっている事象のようであった。
そんな、まるで既に結果が決まっているかのような士郎の射を見るただ一人の観客―――タバサはただただ見蕩れていた。
目の前の男―――衛宮士郎に。
その姿に。
その射に―――見惚れていた。
矢をつがえ、弦を引き、放つ。
ばらばらの筈の動作が、まるで一つの動きのように完全に一致している。
矢を放つ。
矢を射るだけの姿に目を奪われるのは……二度目であった。
『矢を射る』ただそれだけ それだけの動きが、姿が、まるで一つの完成された芸術品。
今までに何十と矢を射る者を見てきたタバサだったが、『矢を放つ』一連の動作を美しいと感じたのは、『タバサ』になる前に見た、一人の狩人が見せた矢を放つ姿以来であ
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