第九章 双月の舞踏会
第九話 伸ばされる手
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士郎は常人でもルイズの姿を視認できる距離まで近づいたガーゴイルを睨みつけた。
「もう少し近づいてくれ。あと三十、いや二十メイルも近づけば、飛び移れる」
「近づいて」
士郎の言葉に、タバサはシルフィードに命ずることで応える。
タバサの命令に、シルフィードが一声鳴いて近づこうとした時、
「相棒ッ!」
「わかっている」
デルフリンガーの警告の声が響く。
応える士郎の声には、焦りが混じる。
雲海の上、月の光を遮るものなどないそこに、ない筈の影の姿が。常人には黒い点にしか見えないそれは、士郎の目にはハッキリとその姿が映っている。
黒い点……それはガーゴイル。
今追いかけている三十メイルはあろう巨大なものではないが、成人男性程の大きさはある。
それが、視界一杯に広がっていた。
軽く五十はいるだろうそれが、士郎たちに向かってきている。
常ならば、ガーゴイルの五十や百、士郎の敵ではないが、今は魔力も体力も殆んどなく。
遠距離武器である弓を投影することは出来るだろうが、矢を引く体力はあれど、肝心の矢を五十も投影する魔力は残っていない。
あと五分もしないうちにガーゴイルの群れと接触してしまう。巨大ガーゴイルに飛び移るには、最速でもあと十分は必要。
一人では対処は不可能だと士郎は冷静に結論を下す。
苦しげに歯を噛み締めた士郎の眉間に皺が寄った時、
「わたしが囮になる」
小さな声でポツリとタバサが呟いた。
シルフィードの身体に手を付き、タバサが立ち上がる。士郎の目の前で、タバサの小さな身体が揺れている。吹きつける風によるものではなく、体力と魔力が既に限界に達しているためであった。
身の丈ほどある杖に縋り付くようにして立つタバサが、シルフィードから飛び立とうとする。
―――が。
「駄目だ」
伸ばされた士郎の手がタバサの肩を掴み引き止めた。
「今のお前の体では、囮にならないことは自分でも分かっている筈だろ。そんな状態で二手に分かれても各個撃破されるだけだ」
「……このままでも同じ」
肩を掴む手を振りほどこうとタバサが身体を振る。しかし、士郎の手は離れない。逆にがっしりとタバサの肩を掴んだ手を自分の元に引き寄せる。タバサの小さな身体が士郎の胸元にポスンとおさまった。
「っ、ぁ」
一瞬の間を置き、タバサの身体が固まる。
「いや、同じじゃない」
自分の胸元におさまったタバサを逃さないように士郎の両手が両肩を掴む。びくりと震えるタバサの耳元に士郎は口を寄せる。
「二人なら出来る」
タバサの肩を掴んだ手にギュッと力を込める。
「だからタバサ。俺に力を貸してくれ」
ゴウゴウと風が鳴る音だけが響く。近付くガー
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