第百三十五話 退きの戦その十四
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だがそれでも鮮やかに勝った、それは何故かというと。
「わかっておられたのじゃ」
「どうすれば勝てるかをですか」
「寡兵であればそれはそれで勝てる」
その方法があるというのだ、それこそがだ。
「雨が降るその時に本陣を攻めればな」
「桶狭間そのままですな」
「だからこそ信長殿は勝てた」
「雨が降ることも」
「雨はわかる」
どうしてわかるかというと。
「空の動きなりでな」
「燕が低く飛べば」
本多もわかった、彼とて切れ者だ。それがわからない筈がない。
「他にもありますな」
「何かで御存知だったじゃ」
信長は事前に雨が降る時を読んでいてそれでだったというのだ。
「そして本陣のこともわかっていて」
「そういうことじゃ」
「そして今もですか」
「織田家は信長殿さえおられれば幾らでも立ち直れる、それにじゃ」
「それにとは」
「今こうして退くのが一番だったのじゃ」
金ヶ崎で即座に退くことを決めた、それがだったというのだ。
「あそこで朝倉殿を一気に潰すよりもな」
「確実だったと」
「そういうことじゃ」
「しかし織田家の諸将の方々は」
「あの方々、我等もあそこで逃げられるからこそじゃ」
「大丈夫だと」
「そうじゃ、逃げられるのじゃ」
こう言うのである。
「むしろあれだけ勝っていて即座に退きを決断されたあの方の断の速さに驚くわ」
「あの思い切りのよさは凄いですな」
「それだけ信長殿が凄い方ということじゃ。さて」
家康はここまで言って上を見上げた、そしてこう言った。
「都からすぐに三河に帰ってじゃ」
「次の戦の用意ですか」
「次が本番になる、三河武士の心意気みせるぞ」
「わかりました」
本多も三河武士の一人として主の言葉に頷く、それと共に彼もまた信長がこの退きでも生き残ることを確信したのだった、主との話から。
第百三十五話 完
2013・5・1
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