第百三十五話 退きの戦その十三
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誰かが来た、羽柴にとって思いも寄らぬものだった、また戦局が変わろうとしていた。
家康も必死に都に向かっていた、その彼に左右からだった。
酒井と榊原が来た、そしてこう言って来た。
「殿、我等は何とかです」
「今のところこれといって落伍している者もおりませぬ」
「退きは順調です」
「あくまで今のところですが」
「そうか、それは何よりだ」
家康は二人の話を聞いてまずはよしとしてこう言った。
「このまま最後まで都に行ければよいな」
「後詰の羽柴殿が頑張るっておられます」
「その間にです」
「うむ、羽柴殿もやるのう」
家康は駆けながら後ろを見た、その少し後ろに羽柴が率いる後詰がいるのだ。
だが彼のすぐ後ろには誰もいない、そこにいる筈の者達は。
「はて、明智殿と竹中殿の軍勢がおられるな」
「そういえばですな」
「今はですな」
「急に何処かに行かれました」
「後詰に行かれたのでしょうか」
「援軍に」
「そうやもな、しかし我等はじゃ」
徳川家の軍勢はというのだ。
「今は下がろう」
「ですな、織田殿の軍勢の殆どは先に行っておられます」
「それではですな」
「今は一刻も早く都に向かいましょう」
「何としても」
「その通りじゃ、今はそれが先決じゃ」
家康も退きに加わろうと思った、しかしなのだ。
「戦をするよりもな」
「下がることですな」
「次の戦の為にも」
「その戦の為にも」
「必ず次の戦がある」
家康は確信していた、このことを。
「一旦都まで戻ってからな」
「では殿、右大臣殿は生きておられると」
本多正信も来た、その彼も家康に言って来た。
「信じておられるのですな」
「あの方はこの程度のことでどうにもならぬわ」
「ではこの危機も」
「無事に避けられる」
間違いなくそうするというのだ、信長は。
「真っ先に都に戻られるであろうな」
「では」
「我等もまずは都に戻る」
信長の様にそうするというのだ。
「そして戻ってからじゃ」
「それからですか」
「再び」
「そうじゃ、朝倉家及び浅井家との戦になる」
再びだというのだ。
「だからよいな」
「わかりました、それでは」
「あの方は生半可な方ではない」
伊達に幼い頃より信長を知っている訳ではない、家康は信長の本質を的確に見極めていたのだ。
「今は雲の間に隠れておられるだけじゃ」
「天に昇った蛟龍がですな」
「そうじゃ」
まさにその通りだというのだ。
「ただな」
「そういえば桶狭間もでしたな」
「うむ、思い出したな」
「あの時右大臣殿は勝てませんでした」
戦の常道から考えればだ、軍の主力を離していた信長に今川の二万五千の大軍の相手はとても無理だった。
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