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ニュルンベルグのマイスタージンガー
第二幕その十二
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第二幕その十二

「ここから」
「はい、ここから」
「この横町を通っていけば」
 ヴァルターはエヴァを抱き締めつつ己の横にあるその横町を見るのだった。
「城門の前で人夫も馬も見つかる。それで」
「はい、町を出て」
 二人はそのまま駆け落ちしようとする。しかしここでザックスが扉を開けてランタンを出しそのうえで二人を照らすのだった。二人はその光を浴びて驚きの顔になった。
「ザックスさんが」
「ザックス!?あの靴屋のマイスターか」
「そうです。あの人が見つけたら」
「それでは逃げる道は何処に」
「あの通りを行けば」
 ここでエヴァはヴァルターが見ていた横道とは逆の道を指し示すのだった。
「あの通りを行けば」
「あの通りを」
「ええ。けれど」 
 だがここでエヴァは暗い顔になるのだった。
「あの道はややこしいから。それにあそこから巡検の人の角笛が聞こえるし」
「見つかるのか」
「はい。ですからあそこは」
「それじゃあ横道を」
「けれどザックスさんが」
「どくように言おう」 
 ヴァルターは強硬手段を考えた。
「これなら」
「いえ、それもいけませんわ」
 その強硬手段に出ようとする彼を必死に止めるエヴァだった。その身体を抱き締めて。
「あの人に姿を見られては」
「そうか。私の姿を知っているから」
「はい。あの人は貴方をよく知っています」
 ヴァルターを見上げるその顔は彼を心から心配するものだった。
「ですから」
「あの人は私の味方だと思ったのだが」
 そんなことを言っているとそのうちにリュートの音が聴こえてきた。二人がそのリュートの音が聴こえる方に顔を向けると彼がいるのだた。
「あれは」
「ベックメッサーさんね」
 エヴァは顔を顰めさせて言った。
「まずいわね、こんな時に」
「どうする?靴屋は光を引っ込めたけれど」
「やっぱり来たな」
 ザックスは扉の向こうからベックメッサーの姿を認めてまた呟いた。
「案の定だ」
「ベックメッサーというと町の書記の」
「はい」
 エヴァはヴァルターの言葉に対して頷いた。
「そうです。あの人です」
「あいつだけは許せない」
 怒りに満ちた声で腰の剣に手をかけるのだった。
「今ここにいるのなら。それなら」
「どうするのですか?」
「成敗してやる」
 彼の言葉は騎士のものだった。
「今ここで」
「お止め下さい」
 エヴァはここでもヴァルターを必死に止めるのだった。
「そんなことをしたら父が目覚めてしまいます」
「御父上が」
「ベックメッサーさんは一曲歌ったらそれで帰ってしまいます」
 こうした時の常である。
「ですからこの木の陰に隠れていましょう」
「またここに」
「はい。そうして」
「わかった。それでは」

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