1『ヘルメス・トリメギストス』
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イヤーは君ではなかったのかい?」
そのゲームの名を出した時、水門の体がピクリと動いた。
《バトルロイヤリティ・アーケード》は《ナーヴギア》用に作られたアクションゲームだ。路地裏でのストリートファイト形式をとったゲームで、《ソードアート・オンライン》発表前はナーヴギア用ソフト中最高と言われたほどだった。
「世界大会三度連続優勝、最優秀プレイヤー賞受賞。それだけでなく、それまでのナーヴギア用ソフトでも圧倒的な成績を残している」
「……人違いじゃないのか」
「いいや?私の元には『全て』の監視システムがある。そこには、間違いなくプレイヤーネーム《Hermes》は君だと記されていたが?」
いじわるな笑みを浮かべた茅場を水門はもうひとにらみすると、はぁー、と盛大にため息をついた。
「わかったよ。完敗だ。……で、僕になにをさせようというんだ?《ソードアート・オンライン》を買うつもりは無いのだが」
「ほう、君ほどの人間がSAOに興味がないとは驚きだったね」
「いや……興味がないわけじゃないさ。ただ、もうゲームで自分の実力を示すのも限界があるかな、と思っただけだ」
水門の自嘲気味な笑み。茅場はそんな彼に優しく話しかける。
「喜べ少年。君の望みはようやく叶う」
「……何?」
茅場は一枚のディスクを取り出した。
「それは……ナーヴギア用ゲームソフトか?」
「いかにも。ここに入っているのは、私直々に改造を施した《ソードアート・オンライン》のソフトウェアだ」
「……!!」
茅場は少年が話に喰いついたのを確信し、内心でよし、と呟いた。
「《ソードアート・オンライン》……あの世界は、ゲームであって遊びではない。あの世界で命が尽きれば、実際の命も尽きる」
「!?」
「だが、あの浮遊城でなら、君の望みはかなう。誰よりも強くありたい、と言う」
「何故、それを!?」
「誰でも気付くさ。……このSAOソフトには、君が望みをかなえるために必要なすべてがある。ただし甘くはない。君は死の危険性が誰よりも高くなる。代わりに君は、他のプレイヤーを超える力を手に入れる。私はね。水門君。自分の創った世界と、本物の魔術が融合するのを見てみたいのだよ」
茅場が言う。
しかし水門は薄ら笑いを浮かべていた。
「命を懸けて戦う?面白い。僕は常に死と隣り合わせだ。今更怖くなんてないね」
「そうか。……引き受けてくれるね」
「ああ」
茅場はにやりと笑うと、「では、正式サービス開始の日にここに来てくれ」と一枚の紙を渡すと、それまでに設定をしておくようにと、ソフトを渡した。
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