第九章 双月の舞踏会
第八話 タバサ
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背筋が粟立つ感覚に倍する怖気により動きが止まったのだ。
「―――ッ!!? これが狙いかッ!!」
士郎は半ば氷ついた首を動かし空を見上げる。
月は雲に隠れかけており闇を照らす光は弱い。だが、士郎の目は空から降り注ぐ無数の氷の矢を捕らえていた。最初の攻撃に放たれた氷の矢は、まさに雨のような勢いと数であったが、今度はそれを超える数と速度、そして密度で文字通り豪雨のように降り注いできている。その速度と範囲の広さは、今から逃げ出しても逃げられるかどうか微妙なラインだ。重力により更に加速した氷の矢の力は、容易く士郎の肉を食い破るだろう。
氷の檻に覆われたタバサの手が動き、士郎の手を握り締める。
指先に感じたそれに、士郎は顔を下げる。士郎の目とタバサの目が合う。
常に感情を見せないタバサの瞳の中に、揺れ動くものを―――士郎は見た。
降り注ぐ氷の雨は間もなく地に降り注ぐ。
氷の檻を砕いて逃げたとしても、被弾は避けられない。
これだけの矢を迎撃できるだけの剣を投影するには時間が足りず、剣を振るったとしても、片手では全てを捌くことは不可能。
だから、士郎は―――。
刹那にも及ばない一瞬で浮かんだいくつもの案の内一つを選び。
躊躇うことなく―――。
ずっと……一人……だった。
父が殺され。
母の心が奪われ。
ただ一人……残された母の命を守るため……仇の命に従っていた。
一人で……ずっと一人で……。
時と共に削れていく心を守るように、次第に感情は鈍り、弱くなっていった。
弱みを見せないように、見られないように、心に雪という覆いをかぶせていく。
毎日毎日……何年も……何年も……。
やがて降り積もった雪は氷となり。
何にも動かされない心となった。
多くの人の亜人の獣の命を奪った。
しかし心は動かない。
微かに揺れることもない。
時が流れ、自分を友人と呼ぶ者が現れた。
その二つ名の通り、微熱でもってわたしの心を溶かそうとしてくれた優しい人。
共に歩む従者が出来た。
大きな身体に無邪気な心を持ったわたしを姉と呼ぶ可愛い子。
苦しみも、痛みも、悲しみも……絶望でさえ動かなくなったわたしの心が……微かに動いた。
だけど……それだけ……何年もかけて降り積もった雪で生まれた氷は決して溶けることはなく。
向けられる優しい眼差しも言葉も……降り注ぐ雪と吹き荒れる風で遮られる。
そんなわたしの心が、何故か酷く揺れ動く時があった。
落ちこぼれと蔑まれていた少女が呼び出した彼。
赤い……不思議な男。
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