第九章 双月の舞踏会
第八話 タバサ
[5/10]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
強る意志の光りが見える。
「…………」
「無駄だ。俺に勝てない事は、お前自身が一番分かっている筈だ」
士郎の断言に、タバサは無言で答え、杖を向ける。
杖を持つ力ももう無くなりかけているのか、士郎に向けられる杖の先は細かく震えていた。
それでもタバサは呪文を唱え続ける。
「……止めろ。もう終わりだ」
タバサとの距離を一瞬で詰め、士郎は杖を持つ手を封じるように自身の手で押さえつけた。タバサの小さな手が、士郎の手にすっぽりと包み込まれる。
杖ごと捕まえられたタバサの手は、士郎の想像以上に小さく、そのまま潰れてしまいそうなほど華奢であり、汗で濡れた肌は辺りに漂う冷気で冷え切ったのか氷のように冷たい。
「……違う」
士郎の宣言に、タバサは汗に濡れた美しい氷の彫像のような顔を上げる。
「終わったのは―――」
士郎の目を見つめるタバサの目には、
「―――あなた」
未だ諦めの色は―――ない。
「―――ッ!?」
士郎は背筋が粟立つような危機感に従い、タバサの手を離そうとする。
だが、
「これは―――」
手は凍りついたようにタバサの手から離れない。
いや―――違う。
凍りついたようにではなく、文字通り凍りついている。
士郎が握るタバサの手を中心に、分厚い氷が身体を覆っていく。咄嗟に離れようとした足も動くことがなく、視線を向けるとそこには凍りついた大地が広がっていた。地面につけた両足も同様に凍りついて全く動かない。氷が広がる速度は遅いが、その厚さは士郎が全力を込めなければ割ることは難しいほどに厚い。そしてこの氷は、タバサが持つ杖を中心に広がっていた。その証拠に、杖が触れている地面と手を中心に氷は広がっている。
「何の真似だ」
士郎はどんどんと凍りついていく身体に焦る様子を見せず、タバサに問いかける。常人ならばパニックになるような事態であっても、冷静な思考を保っていた士郎は、自身の身体を調べ肉体にはダメージを負っていないことに気付いていた。どうやら氷は動きを止めるためだけのものであり、例え全身が氷に覆われようとも直ぐに死に至るような魔法ではないようだ。
また、この魔法は範囲魔法なのか、氷に覆われつつあるのは、士郎だけでなく、タバサも同じように氷に覆われていく。
「これで、俺の動きを封じたつもりか」
身体の半分が氷ついても士郎は焦る様子はない。身体に力を込め、士郎は一気にその身を拘束する氷の檻を砕こうとする―――が、しかし。
「―――ごめんなさい」
ポツリと呟かれた言葉によりピタリとその動きが止まる。
タバサが謝ったからではない。
その言葉とともに感じた、先程の
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ