罰則
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年、英雄と呼ばれる人間を育てたいと思ってきている。もちろんそれは彼らの才覚や努力によるところだろうが、同時に我ら教官も努力していかなければならないのだ。さて、仕事は終わりではないぞ。残念ながら問題児はまだいるのだからな」
+ + +
教官室を出れば、上級生と出会った。
灰色髪のそばかすを頬に残す、どこか若々しい顔立ちをした青年だ。
上級生だとわかったのは、胸に巻くマフラーとバッチの色からで、それがなければそばかすの残る若い風貌は後輩だと思っても仕方なかっただろう。足を引きずるように出てきたアレスに気づいて、一学年上であろうその上級生は笑いながら声をかけてきた。
「よう、ずいぶんと長い旅路だったな。見たところ負け戦のようだが」
「この後に敗戦処理が待っているという点で言えば、負け戦でしょうね」
「あら、ま。罰則付きか」
ご愁傷様と言いたげに、青年は手を広げた。
「ま、若いうちはどんどん負けるといいさ。負けることが己を強くする」
「先輩のように上手く撤退したいものですね、アッテンボロー先輩」
アレスがその名前を呼ぶと、アッテンボローはひどく嫌そうな顔をした。
「誰から名前を聞いたんだ、後輩」
「わざわざ噂の出所を探さなくても、すぐに見つかると思いますよ」
「口は達者なようだが、それで怒られるようじゃ、まだまだだな」
「というと、怒られない方法もあるのですか?」
「もちろんだ。策を考えずに語るのは三流の証拠だね」
「後学のために、その策とやらを教えていただけると嬉しいのですけれどね」
「――それは秘密だ。ま、そのうち楽しみにしておいてくれ」
ひらりと小さく手を振りながら、堂々とアッテンボローは教官室に姿を消した。
これが『お呼び出し』でなければ、実に様になっている。
もっともそれを本人に言えば、教官室への潜入調査とでも答えるのだろうが。
「すまなかった」
「ん?」
と、閉まった扉を見ていた頭上から声が聞こえた。
この当事者であるキース・フェーガンが無愛想に見下ろしている。
長身で武骨――明らかに軍人と思われる容貌。
それが表情も変えずにじっと見ている。
初対面であれば、思わず謝ってしまいそうになるが――本人はこれで申し訳ないと思っているらしい。
そのはずだ。
フェーガンと聞けば、思い出すのはグランドカナルの一件だ。
民間人を見捨てる僚艦に、ただ一人民間人を見捨てずに撃沈された悲劇の少佐。
その軍人としての魂に、当時は感動したものだが、本人に出会ってよく理解できた。
こいつは馬鹿なのだ。
言えばどうなるかとか、どんな影響があるとか理解していない。
ただ任務を完遂することしか考えていない、どが付くほどに真面目な馬鹿。
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