第1幕 仙石権兵衛
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バカスが、顔を見合わせながら神妙に言う。
「馬鹿者! わしの屁はそんなに臭くないわい! ほれ、こうして……オエッ!」
騎乗の人であるゴンベエは、その尻からの匂いを手で手繰り寄せるように嗅ぎ……その匂いに咽る。
「馬鹿ですか、ゴン兄」
「馬鹿だな」
呆れる従者である二人。
漫才のような三人は、湯山街道を西へ歩を進めている。
仙石ゴンベエは、ここ中国方面軍の湯山奉行としての任に就いている。
湯山奉行とは、いわゆる温泉で裸の要人を警護する任であり、またその周囲一帯の警備を統括する者だった。
そして彼は今、その上司である羽柴筑前守秀吉に暇返上で警護の命を受け、美濃の自領地より有馬温泉へと向かっている最中なのである。
「やれやれ……本来は半兵衛様の為に買って出たはずが、なんでこんなことに……」
ぶちぶちと文句を垂れるゴンベエ。
その様子に、孫は苦笑する。
「それ、籐吉郎様に言わないでくださいね」
「言うだろうな、絶対」
孫の言葉を即座に否定するソバカス。
彼の言葉は、いつも的を射ていた。
「お前ら、わしをなんだと思ってるんじゃ! 一万石の大領主じゃぞ!?」
叫ぶゴンベエに、素知らぬ振りを決め込む二人。
他者が見ても、三人が主従関係とは思えない姿だった。
「なら、もうちょっと威厳というものをですね……」
「無理だな、無理」
「お前ら、減俸にしちゃろうか……」
すでに石山の町を過ぎ、湯山街道を有岡城へと向かう街道の上。
織田領となったこの場所は、盗賊への苛烈な取締りと商人保護の為に、安全を最優先で考慮されている。
その為、こんな馬鹿な話を無警戒できるほどに、街道は安全だった。
そのはずだったのだが……
「!?」
ソバカスが前方から歩いてくる一人の男、その異様な雰囲気に眼を細める。
「どうしたんだ?」
横にいた孫は、同僚の急変した顔色に訝しげな表情をする。
そして騎乗の人、ゴンベエはそれすらも気がつかず、鼻をほじっていた。
「おい……気をつけろ。なんか嫌な空気を感じる」
その言葉に、孫はようやく顔色を変え、左手で刀の柄を握る。
三人は武将であり、それは織田領の道中でも甲冑を着込んでいた。
そして孫は片手に槍を持ち、ソバカスは鉄砲を担いでいる。
「む……? あの商人がどうかしたのか?」
ゴンベエが無頓着な顔で、様子が変わった二人を見る。
この期に及んで鼻をほじる姿は、一万石の領主とは思えぬ姿だった。
「気がつかねぇのか、あいつ……透波かもしれねぇ」
「ゴン兄! お気をつけを!」
二人は警戒心全開で、前から近づく優男を睨む
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