王妃様とヘンリーくん
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「何?ヘンリーが、……行方知れず、じゃと……?」
齎された情報の意味が、最初は理解出来ず。
次に、理解した事の重さに愕然とする。
「……捜せ。何としてでも、捜し出すのじゃ」
脳裏を過るのは、気弱な、けれども優しげな、幼い笑顔。
扇子を固く握り締めて、何とか手の震えを抑え、指示を受けて部屋を出る影の背中を見送る。
扉が閉まり、部屋にひとり残されて、途端に手が、体が震え出す。
私は、私は。
何ということを。
こんな、そんなつもりでは、無かったのに。
ヘンリーの母である前の王妃が亡くなり、私は後添いとして陛下に嫁いで来た。
と、言うことになっていた。
それが建前で、真実は別にあるということは、当時を知る一定の身分にある者であれば、誰もが知っていることであったけれど。
それを口にして得をする者など誰もいないのも、また誰もが知っていることであったから。
真実などは、どうでも良いことではあった。
ただひとり、いや、ふたり。
愛する女性を失った陛下と、ただひとりの母を奪われた、ヘンリーを除いては。
陛下と愛によって結ばれた前の王妃は、その座に相応しい身分も財産も、何も持ってはいなかった。
周囲の猛反発を退けて迎えたその女性を、だが陛下は、守り切れなかった。
いや、守るために。
手放した。
何度も命を狙われたその女性の、命だけでも守るために。
手放して、死んだことにして。
様々な思惑が絡み合い、選び出され押し付けられた私を、受け入れた。
そんな厭わしい存在である筈の私をも疎んじること無く、愛してはくださったけれど。
手放した女性を、その忘れ形見であるヘンリーを、より大切に思っていることは明白だった。
私は、それで良いと思っていた。
それなりにでも大切にして頂き、身に余ることだと思っていた。
実家からも他の者たちからも、何としても子を成し、国母となることを強く望まれ、義務のように言われてはいたけれど。
それは陛下がお決めになることであり、私にどうにか出来ることでも、すべきことでも無いのだから。
ヘンリーも、私を慕ってくれた。
周囲の、利に聡い者たちからの疎ましい視線に、気付いているのか、いないのか。
追い出された実の母の存在を、知っているのか、いないのか。
そんな汚れた思惑や事情には係わらず、母として慕ってくれていた。
私は、本来ここにいる筈の女性に代わって、この幼子を守ろうと。
そう、決めた。
その想いは、我が子デールを授かってからも変わりは無かった。
周囲からの圧力が日々増していく
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