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ニュルンベルグのマイスタージンガー
第一幕その十九
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第一幕その十九

「胸は快楽に満たされその呼ぶ声に応える。新しい命は生まれ出て新しい愛の歌に合わせて歌え」
「もう終わりですか!?」
 チョークをここでは四回入れたところでベックメッサーが幕から出て来た。
「これで」
「何故聞かれるのですか?」
「もう黒板は埋まってしまいましたよ」
「これからです、まだ」
「ではもう他の場所で御一人で歌って下さい」
 たまりかねた声で記録席から出て言うベックメッサーだった。
「こんな歌ははじめてだ。マイスターの歌ではありません」
「マイスターの歌ではないと」
「そうです」
 ヴァルターを見据えての言葉だった。
「こんなもの。何から何までマイスターのものではありません」
「そう、確かに」
「はじまりか終わりかもわかりませんでしたな」
「数や結び方は?」
 それもなのだった。
「短過ぎたり長過ぎたり」
「再現もないし節もなかった」
「何なんだこの歌は」
「だからです」
 ベックメッサーの言葉は憤慨したものだった。
「段切れもないですしコロトゥーラもありません」
「そうだ。マイスタージンガーの歌ではない」
「聞いている方が不安でしたぞ」
 ベックメッサー以外のマイスタージンガー達もやはり彼と同じ意見であった。あえて中立になっているポーグナーと考える顔になっているザックス以外は。
「内容もない」
「椅子からも立ったし」
 コートナーも言う。
「全くの滅茶苦茶というか」
「何だったのでしょうか」
「そういうことです」
 ベックメッサーもまだ言う。
「これではとても」
「いえ」
 しかしここでザックスが言うのだった。
「皆様方急がずに」
「急がずにですと」
「そうです」
 彼は言うのだった。
「誰もが貴方達と同じ意見ではありません」
「といいますと」
「貴方はどうお考えで」
「騎士殿の詩と節ですが」
 こう同僚達に述べるのだった。
「新しいものとは思いますが混乱しておりません」
「乱れてはいないと」
「そうです。我々のやり方ではありませんが」
 マイスターのやり方だけではないというのだった。
「歩みはしっかりとしていて迷いはありません」
「迷いはですか」
「はい、ありません」 
 また言うのだった。
「それを規則に従っていないものを規則に照らそうという場合には」
「その場合には?」
「自分達の規則は忘れてしまって新しい規則を求めなければなりません」
「そうではないでしょう) 
 しかしベックメッサーは強硬に彼に反論してきた。
「そうではありません」
「違うというのですか」
「これは歌ではありません」
 こうまで言うのは相変わらずだった。
「最早」
「マイスターの歌ではないからですか」
「そうです。もう
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