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王道を走れば:幻想にて
第五章、その1の3:狂王の下僕
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の様は狩猟者たるチェスターの心に、大きな満足感を与えた。己が得た力、操る力。それによって為し得た結果が目の前に転がっているのだ。まともな理性の持ち主ならば慈悲を込めて止めを刺すだろうが、少なくとも数分前に理性をなくしたチェスターはその選択を好としない。寧ろ、結果が本当の物であるか確かめたくなってしまうのだ。
 チェスターは踏みつける力を強め、腕を足蹴にする。チェスター自身は自覚していなかったが、その行為自体にも魔力が付加されており、腕は砂の城のように壊れていく。縊られる直前の俎板の魚のごとく、慧卓は声にならぬ悲鳴を漏らして悶絶する。しかしチェスターは容赦はせず、ボロボロであった腕がさらにボロボロになるまで、腕と骨が一緒くたになるくらいにまで痛みつけた。腕が駄目になってしまうと、今後は手を下ろしてむき出しとなっている慧卓の胸肉を弄りだす。天地が乖離してしまうかと思わんばかりの強烈な刺激が慧卓に走り、喉は引き攣って息を漏らすことすらできなかった。無念の涙が落ちていく中、チェスターは悦楽の笑みを浮かべて肉を触り、そして千切っていく。
 残虐な行為が終わったのは二分ほど経った後である。義眼の力によるものか、チェスターは絶妙なさじ加減によって獲物の命を長らえさせたのだ。言いかえると、痛みによって意識を惹き戻し、安易に死なせなかったという事である。

「ふぅ・・・ふぅ・・・思わず調子に乗ってしまったな。こんな事をする気なんてなかったのにな。おい、まだ生きているかね?」
「あ・・・・・・あ・・・」
「ほとんど死にかけか。やり過ぎはいかんなぁ。貴重な被験体第一号なのに。次からはもっと勝手がいくように身体を慣らさねば・・・おや?」

 チェスターはあるものに気付く。それは、慧卓の左手に嵌っていた指輪であった。爆発によってガントレットが吹き飛んでしまったために、ターコイズの煌びやかな様が見えるようになっている。指や手の甲はずたずたに引き裂かれている一方で指輪だけ無傷なのが奇妙であったが、そんな事は気にも留まらなかった。

「生意気だな。指輪を嵌めているとは・・・さぞ、大切な人からの贈り物だろう。だが死に行く騎士には無用の長物だ。これは私がいただこう」

 腰を屈めてチェスターは指輪へと手を伸ばした。身体がバラバラに千切れるような激痛に苛まれ、慧卓は濃厚な死の気配が迫ってきているのを感じていた。

(いやだ・・・こんな所で死にたくない・・・)

 チェスターの手が指輪へと近づく。その邪悪な手が指輪に触れた途端、潰えかけている自身の命がまるで蝋燭の火のように消えてしまうような予感がする。緩慢に死の薫りが慧卓を取り囲んでいき、瞼が段々と重くなっていくのを感じた。

(死にたくない、死にたくないっ・・・死んでなるものかっ。まだ、俺にはやり残したことが
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