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王道を走れば:幻想にて
第五章、その1の3:狂王の下僕
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なって、鋭利な切断面からはどくどくと赤い血が流れていた。さらには胸のあたりからもひりひりとした痛みを覚えつつあり、よくよく見ると赤黒い肉が露出しているのが分かる。火球の爆発を受けたせいで大火傷をを負ってしまったのだ。数分もしないうちに、脳からの信号が全てかき消されそうな激痛が発される事だろう。
 チェスターは顔を流れる血を拭くと、哀れにも倒れこむ慧卓を見下ろし、獰猛な猟師のような笑みを浮かべた。

「ふ、ふふ・・・一時はどうなるかと思ったが・・・案外どうにでもなったな。なぁ、騎士殿?」
「・・・ぃっ・・・いたい・・・」

 慧卓は横倒しとなったまま身動ぎすら出来ない。徐々に感じつつある激痛のせいで、身体の全神経が馬鹿みたいに反応してしまっているのだ。足を少しずらすだけで、息を求めようと胸を膨らませるだけで痛みが走る。大事なものが消えて溢れ出してしまう喪失感が、右手から絶え間なく生じる。最早慧卓は、戦いのための意思を挫かれてしまっていた。僅か数十秒前まで相手を圧していた者とは、考えられぬ末路であった。

「驚いたかね?それはそうだろう。私自身も驚いているのだからな・・・。まさか『意識魔法』以外の魔法を、魔術具なしで行使できるとは思わなんだ。さすがは、義眼の魔力といった所か・・・。
 それに付け加えていうがね、『火球』以外の魔術を使えないと言った覚えは無いぞ。私は『破壊魔法』が大の得意分野でね、たまたま『火球』が一番得意だっただけさ。君がもし、魔術士との戦い方を知っていれば、そのような無様な姿を晒す事は無かっただろう」

 チェスターから見た慧卓は、実に愉快な姿をしていた。先程のチェスターの反撃、『破壊魔法』の一つ、『剃刀(カミソリ)』によって慧卓の右手は魔道杖を握ったまま切断され、チェスターの足もとに転がっている。また追撃の『火球』の魔術によって、彼の胸部はやや抉られて、最も大きく火焔を受けたであろう右腕はすっかりと黒焦げになっている。錫杖は千切れた左手の指と一緒に、彼の傍に転がっていた。出血も夥しいものであり、早期の治療を受けなければ、いやたとえ受けたとしても生還率は僅かなものだといえるだろう。
 チェスターは頭突きによって折れた鼻を庇いながら、悠々と慧卓に近付いていく。

「回復魔法は使わないのかね?いや、使えないといった方が正しいか。あれは教会が開発した歴史の浅い魔法だ。才能だけを振り翳すド素人には、使い方はおろか理論すらも理解できないだろうよ」
「ぐっ・・・くそ・・・くそ・・・」
「いやぁ、痛々しいな。なかなかにそそられるが・・・どれ、痛いのはこの黒焦げの右腕かね?」
「っぎぃぃぃっ!?!?」

 チェスターの靴が慧卓の右腕を踏みつける。まるで骨と肉を互いに潰し合わせるような痛みが走り、目玉が裏返りかけてしまう。そ
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