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王道を走れば:幻想にて
第五章、その1の2:邂逅、再び
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のは、私が正気だからだ。分かるか?私は正気だから、正気なのだ」
「い、いや、今のお前は明らかに変だ。何かに取りつかれたような、そんな気さえする。さっきまではそうではなかった。この遺跡に入ってからだ、チェスター、お前の様子がおかしくなったのは!」
「ははっ、成程。秘宝を前に茶化そうとしているな、アダン殿?さては貴殿も宝が欲しいという訳か!心配せずとも私が必要としている秘宝は唯一つ、義眼だけだ。他は何もいらん。そうだ、友誼の証に君には錫杖を与えよう。そして今は亡きビーラ殿が蘇った暁には、彼のために首飾りを探すとしよう・・・うん、友誼とはすばらしい言葉だ・・・」

 ますますもって疑念が深まる一方であった。もはやアダンの理性から考えれば、チェスターは狂気に染まっているとしか思えない。王国を変えるという理念に燃えていたあの青年の姿は、ここには存在していなかった。

「お、お前・・・どうしちまったんだ?理想はどうした!?王国を救いたいんだろ!?そのためにここに来たんじゃないのか!?」
「理想・・・か。確かにそのようなことを考えていたな、昔の私は。だがあれは浅慮であった!私はそんな他愛のない事よりも、もっと崇高で、強烈な意思を感じたのだ。己の魂の本質さえ覆してしまうような、神の御意志を!」
「は・・・?」
「私はなぁっ、アダン殿っ!!」

 チェスターは台座の肘掛けに隠された小さな突起を見付けると、まるで最初から知っていたかのように『くい』と引っ張る。すると台座の背後に大きなレバーが地面から伸び上がり、チェスターは確りとそれを掴む。

「狂王にもう一度、御目に掛かりたいのだ!!」

 叫びながらチェスターは、レバーをぐいと引き倒す。それを拍子として、床の下から歯車同士が複雑に噛みあい、閂が解かれるような音が連続して響いてくる。その連続は、段々と台座の後背にある壁の方へと伸びていき、壁に接触したと思った瞬間、全ての鍵が外されたかのように一際大きな音が響く。
 固唾を飲んで見守っていると、あろうことか、壁が二つに分かれて開放されていく。壁全体が一枚の隠し扉となっていたのだ。開かれるにつれて壁の向こう側から、積年の怨念が篭ったような邪悪な薄紫の靄がドライアイスのように地面に広がっていった。この先にあるのは人が触れてはならない狂逸(きょういつ)の代物である、世に解き放っていいものではないと、アダンは本能的に悟った。同時にそれは今のチェスターが本心から待ち望んでいるものだとも理解できた。
 はたして壁の向こうに安置されているものを見付けると、チェスターは狂喜のあまり声を裏返した。

「はっ、はははっ、ハハハハハッ!!見たまエッ!!あれが『義眼』だっ!!」

 一つの大きな棺の上に、もやもやとした魔術の光に包まれて、義眼と錫杖が浮かんでいた
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