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王道を走れば:幻想にて
第五章、その1の2:邂逅、再び
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の中心、『王の間』にてーーー



 時折感じる上階からの振動と咆哮にびくりとしながらも、チェスターの歩みは止まらなかった。彼は今、感激するかのように、見事な保存状態を保つ重厚な広間を眺めている。
 ここから人が消え去って何年経ったことであろう。幾百、或は幾千なのかもしれない。それほどまでの長大な時を経て尚、広間の魅力は損なわれないでいた。まるで人知では及びもつかぬ、奇跡の魔法がかかったかのように。

「壮観だな・・・素晴らしい光景だ」
「ここって・・・いったい・・・」
「アダン殿。ここは中央の間だ。嘗てヴォレンドの狂王は此処で恐怖政治を敷いたのだ。臣民を畏怖させ、思うが儘に魔力を操った。あの台座に座りながらな」

 玉座であろう大きな石の座席を指差しながら、チェスターは嬉々として闊歩する。その後ろをアダンが歩いているのだが、何やら寒気を感じているようで腕を何度も摩っている。肉体逞しいドワーフにしては繊細過ぎる態度であったが、彼はその鋭敏な感覚で、何か言い知れぬ、底の深い波動のようなものを感じていた。それはこの広間全体を覆い、ひしひしと自分に振りかかっているように感じる。まるで魔物の口の中に飛び込んでいるような錯覚だ。気を張っていなければ一瞬で飲み込まれそうな感覚すら感じる。
 加えてアダンは、チェスターに疑念や不安の念を覚えていた。この遺跡に来てから、いや、遺跡に近付いてからというもの、彼は人が変わったように秘宝に執心しているのだ。普段の冷静さを欠き、何かに急かされているように歩を進める。彼の手に握られた魔道杖も、此処に来るたびに何度も行使された。ほとんど直線距離を通るかのように、邪魔なものを破壊魔法で壊してきたのだ。この荒々しさを疑わずに、何としようか。
 チェスターは広間一帯を見渡せる大きな玉座に触れると、仕掛けがないか探り始めた。

「台座には何か細工がされている筈だ。それをどうにかしない限りは、秘宝には辿り着けん」
「・・・な、なぁ・・・本気でやるつもりか?今なら戻れるぞ、やめようぜ」
「おいおい。ドワーフが怯えているのかね?その逞しき肉体は上っ面の矜持を守るための飾りか?墓荒らし程度で慄くような男ではないだろう?何を躊躇っている、手伝いたまえ」
「俺がやめようって言っているのはな、お前が変に見えるからだ!」
「・・・変、だと?私がおかしいと?」

 ちらりと顔を向けてくる。その眼つきは薬物中毒者のように見開かれて鋭いものであり、口はひくひくと小さく痙攣している。まるで極上の晩餐を前にした獣の顔だ。常軌を逸した表情であった。彼はアダンに向けて実に朗らかな口調で言う。

「そんな、人の正気を疑うような目をしなくても大丈夫だ。道中で見ていなかったのかね?私の魔術が行使されるのを。一度たりとも狙いを筈無かった
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