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王道を走れば:幻想にて
第五章、その1の1:ヴォレンド遺跡
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ーーーマイン王国宮廷、王女の部屋にてーーー


 かりかりといわせながら、羽根ペンが羊皮紙をなぞって黒く典雅な文字を作られ、それらは窓からの明るく日差しを受けてゆっくりと乾いていく。川を流れる枝によって出来る軌跡のように流麗な綴りはこう記されていた。『コーデリア=マイン第三王女』と。
 コーデリアは羽根ペンを置くと、身体の凝りを解すようにうんと伸びをする。集中して書類を裁可してしまったため、遅めの昼食を取る事になりそうである。午前中、侍従長のクィニより『あまり集中しすぎるな』と言われた直後にこれである。集中しないに越したことは無いのだが、如何せん多忙の身となって来た昨今では、このような事は控えなければならない。昼食を取った後は市内の視察をせねばならないのだから、自分の管理くらいは確りしないと。
 窓の外には、冬らしい透き通った空気が流れていた。少し前に雪が降っていたため、石造りの家々の屋根は白く染まり、街路は雪かきによってできた白雪の粉が散見していた。内壁の内側を歩く者達は、みな毛皮のコートを羽織って寒さを凌いでいるようで、露天商もやり難そうに手を摩っている。一方で宮廷では、宮廷魔術師が『暖房』の魔術を使っているため、適切な温度にまで室温が上がっていてとても過ごしやすい。しかしコーデリアとしては、市井の人間、とりわけ寒さに身を震わす外壁内の者達と同じ水準の生活をした方が良いのではという思いを抱かずにはいられなかった。高貴な身分だけが微温湯に胡坐を掻くのは、どうにもおかしい気がするからだ。
 トントンと、部屋の戸が鳴らされる。コーデリアは振り返って言う。

「どうぞ」「失礼します、コーデリア様」

 一人の美しい少年が入ってくる。コンスル=ナイトのミルカだ。最近では剣の腕が良くなってきているという話も聞いている。一度時間が出来たら軽く手合せをしてみたいとも、コーデリアは考えていた。 

「ミルカ、お変わりはありませんか」
「はい。殿下の御蔭で、宮廷の空気も温かくなりました。今が真冬だという事を忘れそうです」
「私は何もしていませんよ、本当に。ただ毎日、王女の責務を全うすべく、自分の政務に勤しむだけです」
「いえ、殿下。殿下が積極的に政に取り組んでいただいた御蔭で、他の者は一層奮起しております。自分ばかり怠けてはいられないと漸く悟ったのでしょう。その御蔭で件の憲兵団監視組織の設立のための草案が、先程、議会を通過しました。施行は前倒しとなりまして、再来月となります」
「随分と早いですね。まだ春にもなっていないのに」
「機関への参加を希望する民草が、予想よりも早く集まっていて、ブルーム郷が見事な判断で、早い段階からその者達の研修に取り組んでおられたのです。そのため、研修の終了時期も前倒しとなりまして」
「成程。巡り巡って、良い方向
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