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王道を走れば:幻想にて
第五章、その1の1:ヴォレンド遺跡
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祷師に囁かれた言葉が重石のように心に伸し掛かり、彼に否応なしに『現実』についての想起を強いらせていた。

(こんな所でも、故郷を思い出すなんて)

 久しく感じていなかった懐かしい鉄とコンクリートの都市。そして記憶違いでなければ、夢に『現実』の恋人の姿も出ていたような気がする。彼女の太陽のような笑みを思い出そうとしても、今はどうしてだろう、そこだけが靄が掛かったようにはっきりとしない。目が現れては口が隠され、髪が現れては顔が隠される。それが無性にもどかしくなってしまい、大切な任務の最中だというのに、彼女の姿を確かめたいという気持ちが募っていく。遅まきのホームシックに罹っているという事なのだろうか。
 慧卓は馬上から周りを見る。枯れた木々には雪が被り、野生動物の気配は微塵もない。そのシチュエーションが『現実』の街によく似ている気がして、ますますと思いは募ってしまった。 

(・・・向こうはどうなっているんだろうな。今頃、冬か。街灯やもみの木のイルミネーションが綺麗なんだろうな・・・)
「ケイタクさん、足下!」「えっ?あ、ああ、悪い」

 道を外れてしまい川の薄氷を踏みかけてしまった。危なかったと反省する一方で、慧卓は決心をした。王都に帰ったらもう一度、王都の魔術研究所によってみよう。そこであの所長にお願いして、自分にもう一回あの世界を見せてほしいと頼むのだ。まだこの世界にはやる事があるため離れる事は出来ない。だがせめて夢の世界、或は現実とも幻ともつかぬ不思議な空間で、自分自身の心を慰めたい。一方の世界を斬捨てるという難しい事は自分には出来ないのだから。
 二つの世界を跨ぐ苦悩を抱えながらも歩は進んでいく。リコは段々と迫る遺跡に対して、慧卓以上に期待を募らせているようであった。

「これを越えれば遺跡が見える筈です。あと一踏ん張りですよ!」
「お前、本当に元気だな」「ケイタクさんは見た目の割には体力無いですね。もう少し精の付くものを食べないと駄目ですよ。たとえば、ステーキとか」
「そうだな。王都に戻ったら考えてみるよ」

 どうやら沈んでいる様子が、疲れている風に見えてしまったらしい。これではいけない。リコを守ると彼の姉に約束した手前、こんな不甲斐ない姿を保つわけにはいかないのだ。
 ベルの蹄は雪を蹴りながら、ゆっくりと麓へと近づいていく。時間をかけて少し傾斜のきつい坂を登り切ると、遂に遺跡がその姿を現した。

「見えました」「ああ。壮麗だな」

 そこには、石造りの街が広がっていた。まるで王都を思い出させるように、円形状に大きな街が広がっている。歴史と共に色褪せ、崩れかけた家々が外縁部に連なり、その周りを囲うボロボロの石壁は今もなお外敵を防ごうとしているかのようだった。王都のどの通りよりも大きな、まるで『現実』のもの
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