第五章、その1の1:ヴォレンド遺跡
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。真実を告げよ。時間はかかるが、しかしお前を裏切る事は決してありえないのだから。花は一途だ。大事にせよ」
「・・・はい」
「・・・そして、お前の心に宿るのは、鉄の都への郷愁だ」
「っ!!」
ーーー彼女には、『現実の世界』が分かっているのだろうか。
心臓がどきりと高鳴った慧卓の、そのあまりに分かりやすい反応に老婆は小さく笑みを零した。その息で室内の煙が微かに揺れる。
「ふん、女の姿も見えるな・・・魂は今、一方へ留まっているが、しかし夢を介して『元の場所』へと戻り、そしてまた『此処』へ戻る。だが魂は決断を迫られるだろう・・・それは大いなる闇に触れた時だ。魂は真の拠り所を迫られる。鉄の都か、紅の街か。魂が二つに分かれる事は無い。どちらか必ず、選ばねばならん」
「・・・選ぶって、どういうことですか?」
「成否はいずれ分かる。だが、一つはっきりと分かることがある。お前の未来は困難に満ちている。この世界に居る限りはな」
老婆はそうぽつりと零す。それは遠くの暗雲の中に轟く雷のように重たく、慧卓の心に伸し掛かるように響くものであった。辺境の老いた祈祷師は俯きがちに慧卓の手を見据え、確信めいて、しかし沈み込むような奇妙な表情をしていた。その謎めいた老女の表情が、今の慧卓にとっては運命の審判を下す裁判官のような絶対的なものに見えてしまった。落ち窪んだ黒い瞳には、北嶺の絶対零度の光が篭っているように感じられる。
外でいななく牛の声がどこか遠くのもののように聞こえる。入口に透明な扉が敷かれて、まるで密封されたように室内に澱んだ煙が循環していた。
「存分に気を付けられよ。そなたは今、分岐点に立っておるのだぞ」
煙が揺れて慧卓の顔を掠めた。その若々しい顔立ちには不安の色がありありと現れており、老婆は気を良くしたようにほくそ笑んだ。祈祷師の予言の手は慧卓の心をひしと握り、何時までもそこに残ろうと力を込めているように感じられた。胸の奥にざわめくような、或はきりきりと痛み出すような感触を覚えた瞬間であった。
この二日後、怪我はある程度我慢できるくらいに回復し、慧卓らは再び遺跡に向かって進むこととなった。
ーーー出立より数日後ーーー
白雪の山地を一頭の馬が進む。山間部に広がる谷間を歩き、慎重に慎重を重ねて凍てついた小川を渡る。うっかり愛馬が薄氷を踏まないよう手綱を操るのには凄まじい緊張が必要であったため、越えた後の疲労感もかなりのものであった。そうやって歩いていくと、徐々に双子山の間にある麓へと近づいていく。時折、そこから薄い雲が吹き抜けてくる以外に青空には変化は見られず、行程は至って順調に消化されていった。
そんな幸運や、後ろに跨るリコの期待に胸膨らむ様子とは反対に、慧卓の表情は浮かないものだ。数日前、祈
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