暁 〜小説投稿サイト〜
王道を走れば:幻想にて
第五章、その1の1:ヴォレンド遺跡
[4/13]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
潮が、耳に入った事があるからだ。だがミルカの言動を聞くにそれについて心配する必要はないらしい。危惧を覚えていた一件が、穏便に消化される事の何と心安らかなことか。

「あいつが戻ってきたら真っ直ぐにアプローチしてみたらどうですか?あの人、あれで結構馬鹿ですから、あっさりとあなたに傾くかもしれませんよ。それはもう、心の天秤がガタっと傾くくらいに」
「そこまであっさりといってしまったら、それはそれでどうかと思いますが・・・でも素直になるのは良い事かもしれません。助言をありがとう、ミルカ」
「いえいえ。僕も、あなたには幸せになって欲しいですから、コーデリア様。では僕は、我等が執政長官殿の所へ戻ります」
「あの・・・手ぶらで大丈夫なのですか?」
「ええ。あれば嬉しい程度のものだって、仰ってましたから。あの人は本心からマティウス様に迎合する事はありませんよ。では、私は失礼します」
「分かりました。御勤め、ご苦労様です」

 ミルカは朗らかな笑みを残して部屋を去っていく。王女は紫の宝玉の首飾りを取ると、窓辺に近付いて外を見遣った。遥か北の空には、どんよりとした暗く厚い雲がかかっており、先行きの不安と苦難を予感させた。

「ケイタク。早く帰ってきて。待っているから」

 ひしと首飾りを抱きながら、コーデリアは慧卓のみならず、調停団一同の安全を心より祈った。耐え難い心の痛みを感じるのは、もっと自分が老いてからでいい。今は自分達の友人や自分を想う人々が、何事もなく無事で帰還する事が大切であると確信していた。
 彼女の祈りに応えるかのように、首飾りは妖しげに光る。まるで言葉にするのも憚られるような、薄らとして微かな光である。だがその微かなものにさえ魔術の仄暗い深淵を感じさせるものがあったが、コーデリアはそれに気付く事無く、ただ一心に祈りを捧げていた。王女の純真さは、まだ魔術の本質というものを知るには幼すぎるようであった。



ーーー白の峰の集落にてーーー



 見渡す限りの白銀の世界がそこに広がっている。雄大な峰は長く降りつづいた雪によって純白に染まり、まるで鏡をひっくり返したように光っている。青々とした朝日のおかげで、その光沢が近景から遠景に至るまでどこまでも広がっているのが分かる。積雪によるなだらかな稜線と、冬の透き通った空気が合わさり、このような奇跡を生んでいたのだ。まるで満月に浮かんでいるかのような美しい光景である。
 昨日まで続いていた冬の嵐は一先ず治まりを迎えており、集落にはそれまで見えなかった人の姿が現れていた。リコ曰く、彼らは昔から山の奥地に暮らす少数の部族であるらしい。民族としては『タイガの森』にいるエルフと同様であるが、両者の交流は少なく、彼らは専ら山中で牧畜を営んでいるのが常であるようだ。
 集落の者達は皆
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ