ありがとう、って。
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ら駅までの道ってわかります?」
「ここの境内を抜けた先の道路を右に曲がって、更に次の交差点を右に曲がって暫くしたら見えますよ」
「そうですか」
彼女は本当に小さく、多分をつけていいくらいの小ささで、笑ったと思う。
「ありがとうございます」
そう言って、彼女は階段を降りていった。
「ありがとう、か」
彼女がさった後独りごちる。いつかの記憶が重なる。嗚呼、これが最期に人と交わす言葉になるだろう。この偶然に無性に感謝したくなた。
石段を登り切ると、神社の本殿がある。そこから少し右手に入ったところに黄色と黒のロープが張ってあった。ここは昔立入禁止区域だった。今もそうであって安心する。
周りに人がいないことを確認してロープをくぐり、奥に移動していく。といっても、先は短い。百メートル程歩けば、この神社がある丘の頂上だ。ここは嘗て神社が会った場所で、本殿はもうこの下に移されている。崖の近くに歩み寄れば、駅も見えた。
人が来てもなるべく見えにくい位置にある木を探して、手早く持ってきた布切れをかける。ロープなんてものを態々買いに行く気も起きなかったからだ。
なんとか苦労して布を木に括りつけると、不図持ってきていたバッグの事を思い出した。まだパンが四つ残っていた。最後の晩餐と洒落込もうと思って、本殿のところに戻ってパンを食べた。なんとか三個は食べれたが、残りの一個は食べきれなかった。
本殿を見て、あることに気づく。そうだ、財布も持ってきていたのだ。バッグから財布を抜き出して、賽銭箱の近くまで歩む。二礼二拍手の動作を、幾分か適当に済まして、財布の中身を逆さにした。小銭が落ちる音がする。更に挟まっていた現金を落として、鈴を鳴らす。お願いごとも神様への挨拶もする気が起きなかったけど、先ほど私にありがとうと言葉をかけてくれた人に対する感謝は、したくなった。
ひと通り済ませて、また丘の上に登る。手頃な石をなんとか拾って台にして、布切れと首の位置を合わせた。
最期にこの丘からの景色を眺めて、踵を返し布切れの前に対峙する。
さぁ動作はシンプルだ。さらば現し世、其処に住む人よ。私は先に逝ってくる。
最期に足元の石の台を蹴り飛ばす瞬間は、ある意味晴れやかだったと言ってもいい。
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